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MOLDAの吉田弘氏のご逝去--交友の記録(5)

2005/03/29
MOLDAの吉田弘氏のご逝去--交友の記録(5)

昼間「日本コンピュータ化学会」の会誌が届いた。当社はこの学会の賛助会員である。夜半近く、社員らが帰宅した後の静かなオフィスで、何気なく会誌を開くと、信じられない文字が躍っていた。
http://www.sccj.net/event/nenkai/2005sp/program/program.htm
会誌の巻頭にある数編の記事が「吉田弘先生のご逝去を悼む」などの追悼記事だった。胸もつぶれる思いだった。インターネットの情報では、亡くなったのは1月2日、私が知ったのは3月29日の夜半である。私の元に訃報が届かなかったのは私の平素の不行跡の故なのでやむをえない。しかし、その驚愕と落胆は、あまりにひどく、言葉では言い表せないものだった。
吉田弘氏は、広島大学の助教授というよりも分子モデリング&表示システム「MOLDA」の作者として有名である。いろいろな意味で、当社と、いや私とはかかわりが深かった。まず、彼は大学の同じ学科の後輩だった。彼は、いまからおよそ20年前の学生時代、駒場祭(東大教養部の学園祭)でMOLDAを発表した。多くの化学の先輩らはこれを子供の遊びとみなして見過ごしたようだ。しかし、私よりは若くいが優れた数名の友人の研究者が、私に目を剥いてこれを報告した。「すごいぞ。あなたは、日ごろから科学は頭じゃなくて目に教えろといっていたじゃないか。彼のソフトは画期的だぞ」 私は、心躍った。彼と会える日を楽しみに友人らに会えるように手配を頼んだ。
彼は目のクリクリとした童顔の学生だった。歳の割には落ち着いていて、世の中を達観しているようなところがあった。やがて、指導教官の教授、研究室の助手の方とご本人の3名連名の「パソコンによる分子のモデリングと分子力場計算入門」という本が出版されることになった。彼が大学4年生のときである。理工系の分野では、学部学生が専門分野に近い書籍を世に問うなどということは、ほとんどありえないことだった。陰に陽に風当たりがあるであろうことを予測して、教授以下の研究室の皆さんが名前を連ねてくれたのである。出版した会社はもちろん私のところである。当初はソフトウエアもパッケージ化して別売りにしていた。発売元も当社だった。
http://cssjweb.chem.eng.himeji-tech.ac.jp/symp/96conf/a204/abst.html
案の定いろいろなことがあったが、どの事案もご本人と私と研究室の善良な先輩たちによって穏便にかつ紳士的に事柄を処理していった。何があっても動じないこの若き研究者に舌を巻きながら、私もつい熱が入っていた。
「パソコンによる分子のモデリングと分子力場計算入門」は、吉田弘氏のデビュー作となっただけではなく、当社の「科学パソコンシリーズ」の第2冊目になり、当社がソフトウエアと出版を融合して進めるという事業形態を鮮烈に世に印象付けるものになった。
別の経緯から、私は、福井高専吉村忠与志先生や姫路工大の中野英彦先生を中心とする「化学ソフトウエア学会」と親しくするようになったが、この学会でも若きエースとして吉田弘氏がいつも活動の中心にいた。後には「化学ソフトウエア学会」が他の化学系団体と合同で「日本コンピュータ化学会」を立ち上げることになったが、私も横滑りして新しい学会の賛助会員となり、ここでも吉田弘氏の活躍を身近に見ることになった。
吉田弘先生を十分にサポートできたかといえば、うそになるだろう。零細な企業経営者にできることは少ない。バブル崩壊に伴う未曾有の未回収金に瀕死の事態も体験した当社が一時戦列を離れたこともある。思えば、やって差し上げたいことがたくさんあった。しかし、できなかった。あなたは早すぎた。なぜ、・・・。ほんとうに悔しい。
はてなダイアリーのブログ「こども省」にも、彼のことが引用されている。
http://d.hatena.ne.jp/ecochem/200501
彼の人柄とあふれんばかりの才能がしのばれる記事である。
ご冥福をお祈りいたします。

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琵琶

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