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いまどき学生の人生観と学習モチベーション--心理、教育、社会性の発達(21)

2006/6/25
いまどき学生の人生観と学習モチベーション--心理、教育、社会性の発達(21)

人生観と学習:「エイトキュービックモデル」の提案--感性的研究生活(13)で述べたように、私は、学生らの人生観と学習モチベーションの関係を部分的ではあるが実証的に捕らえることにどうやら(やっと)成功したようである。
これまでは、このあたりの捉え方はすべて勘に過ぎなかった。他の教員の皆さんに説明しても、いろいろに誤解されるばかりで、正しくは伝わらないもどかしさを感じていた。完璧とはいえないが、事実の一端はしっかりつかんだ。これは紛れもない証拠である。
私は今回の発表で、いまどきの学生の人生観は、次の2軸で説明することが大筋可能で、これらと学生らの学習効果の軸が密接に関係することを示した。
(a)「私欲追求大-私欲追求小」の軸
(b)「社会的評価追求大-社会的評価追求小」の軸
上記2軸(a,b)を従属変数とみなして下の学業成績(c)を目的変数とみなしてもよいかもしれないが、ここでは、その考え方はとらない。学生らの学習経路は迂回路がいくつか考えられるので、学業成績の向上が社会性獲得や私欲抑制に向かわせる可能性もある(と願望している、といったほうがよいかもしれない)。したがって、3つの軸は、極力対等に扱うことにする。
(c)学習効果(学業成績)の軸
Photo
各軸を大胆に大小2つずつに分けると、学生らは(a)×(b)×(c)=2×2×2の8つの立方体に分布する。この新しいモデルを「エイトキュービックモデル」と私は呼ぶことにした。現行入試制度のおかげで学生らは成績で輪切りにされ、入学当初は横一線で入学すると考えられる。その後の学業成績がどこまで向上するかが、教師の腕の見せ所となるわけである。とはいえ、学業成績の伸びは、学生本人の資質と努力にも左右されるので、比喩的にいえば学生の能力と教師の能力の掛け算で決まるということになるのだろう。
「エイトキュービックモデル」は、上に掲げた。
Photo_1
先行するモデル(「成績で釣る--自己撞着的モデル(図の左)」「社会性の獲得と知能の増加--社会的学習モデル(図の下)」「市川伸一の外的要因・内的要因-2要因モデル(図の右)」)と私の「エイトキュービックモデル(図の中央)」の関係は、上図のようなものである。
いずれのモデルも、乱暴に言えば「エイトキュービックモデル」を一平面に縮約したり、1次元に縮約しているものになっていると考えられる。
ちなみに、2要因モデルは、市川伸一、“生徒の発達段階に応じた動機づけの手法を考える”、情報教育サイト、ベネッセ、http://benesse.jp/berd/center/open/kou/view21/2004/04/01toku_05.html(2006.06.23確認)を参照した。
さて、この「エイトキュービックモデル」に基づいて、学生らにアンケートを実施した。アンケートの実施時期は履修面接時または初回講義の日である。
A大学(情報基礎、1年生、文科混成)、C大学(電算機概論、1年生、経営工学)、E大学(情報処理、1年生、商学部)に実施したアンケートでは、3大学をあわせて159名から回収ができて、142名分が有効回答となった。
着目したのは、次のアンケート項目である。
--------------------------------
(前略)
6.人生についての考え方
 6-1. お金や財産について(択一)
  ①お金や財産は、他人よりも多く持つことが人生の目標だと思う 
  ②お金や財産は、人生の目的とは思わないが、人並みに持ちたい
  ③お金や財産に特別な興味はない
  ④お金や財産に目がくらむような人にはなりたくない
  ⑤その他(具体的に:                             )
 6-2.人や社会との交わりについて(択一)
  ①人や集団と交わって生きてゆくことが楽しい
  ②他人や仲間が喜んでくれたり、他人や社会に役立つ人になりたい
  ③他人や社会に交わるのはできるだけ少なくなして暮らしたい
  ④他人や社会に煩わされずに生きていたい
  ⑤その他(具体的に:                             )
7.教室運営について
 7-1.(省略)
 7-2.知識の獲得について(3つまで選択可)
  ①資格などに結びつく専門的なことを覚えたり、技術を身に着けることが、大学の授業だと思う。
  ②思考の方法や社会の仕組みなど、資格などに結びつかない話は無駄だと思うので、教師はしないで欲しい。
  ③他人よりお金や財産が得られるような知識や技術を学びたい。
  ④思考の方法や社会の仕組みなど、どんな場面でも生きてゆく上で手かがりなるような深い知恵こそ、大学で身につけたいと思う。
  ⑤思考の方法や社会の仕組みなどの基礎的で深い知恵と、専門的な知識や技術をバランスよく、学びたいと思う。
  ⑥よりよい社会の実現のために、自分も貢献できるような深い知恵を学びたい。
  ⑦その他(具体的に:                             )
--------------------------------
6-1では①選択肢を選んだ者を私欲が大きい者、6-2では①と②を選んだ者を社会活動への意欲の高い者とみなした。該当する学生は2×2に分類される。これらの学生の構成比率は、下図の右のようになった。赤字で書き込んだ数字が各部分の比率である。
1
「私欲小×社会性大」という社会的リーダの可能性を示す学生が30.5%いるというのは頼もしい。ニート予備軍である「私欲小×社会性小」のグループが50.4%と相変わらず他を圧倒しているのが目立った特徴である。しかし、私欲大グループが社会性の大小を問わなければ合計で18.6%と無視できない比率を占めていること、中でも犯罪を犯す危険性が高い「私欲大×社会性小」の学生が10%も占めているのは、かなり憂慮すべき事態であると思われる。このような危険性は10年前にはこれほど大きくはなく、1-2%程度ではなかったのか、と思う。経年調査してこなかったので、数字で示すことは難しいが、教室での実感からはそう感じている(発表では、私の教室での実感を図示して示した)。私欲大グループは、ひたひたと忍び寄るように増大しているというのが実感である。
これら4つのグループに属する学生らが6月第一週までに得ている成績をクロスして得られたグラフが上図の左の図である。入学時には、ほぼ全員が60点程度の成績であったと仮定すると、成績の悪いグループが平均80点、よいグループは平均90点程度に上昇したものとみなすことができる。これは過去の実績に照らしても妥当な結果である。中間的な成績は出席点と毎週の課題成績によっており、これから迎える期末テストの成績は反映していない。最大多数のニート予備軍(「私欲小×社会性小」のグループ)の成績が、上昇しているのは、ここ2年ほどの実感と一致しており、このようになるまでのその前の3年間の悪戦苦闘(笛吹けど踊らず)の成果であり、私としては心底誇りにしたい部分である。2005年度と本年度の成功は、それまでの学生参画型の授業に加えて、「社会の成り立ち」という講義を追加したことによるものであると確信している。
2005年度と本年度の成功によって、学生らの多くの学業成績の向上が図れたことになるが、ひたひたと忍び寄る「私欲大」の学生たちには、学業成績の向上が弱いままである。
彼らは、いったい何を望んでいるのかというアンケートの結果は、次のとおりである。
Photo_2
左の図は、私欲抑制的学生群(手前)と私欲優先型学生群(奥)が7-2の選択肢のどれをどの程度選んだかを示している(複数選択)。④⑤の選択肢は口当たりのよい建前的な回答である。当然のことだが建前的な回答では両群にほとんど差が生じていない。複数選択にすれば建前の回答以外の本音の選択肢も選ばれるはずだと期待して設計したアンケートであるが、そのとおりになったようである。実際、私欲優先型学生群は私欲抑制的学生群と比べて①③を多く選び、⑥を少なく選んでいる。
その対比(=私欲優先型学生群/私欲抑制的学生群)をグラフにしたものが、上図の右の図である。
私欲優先型学生群は私欲抑制的学生群に比べて、①を36%も多く希望しており、③については、2.7倍近くも多くを望んでいる。他方、社会貢献の意欲⑥は、半分以下程度しかないことが示された。これは、大学というよりは専門学校に寄せる期待感とよく似ているように思われる。私欲優先型学生群は明らかに私欲抑制的学生群とは違った人生観と就学観を持っているのである。
 ①資格などに結びつく専門的なことを覚えたり、技術を身に着けることが、大学の授業だと思う。(135.8%)
 ③他人よりお金や財産が得られるような知識や技術を学びたい。(265.9%)
 ⑥よりよい社会の実現のために、自分も貢献できるような深い知恵を学びたい。(46.8%)
これからは、これら私欲優先型学生向けの「資格対策コース」を別に立ち上げるか、入学時に切り捨てるのか、通常授業でも専門家教育的要素を取り入れるのか、といろいろな戦略が考えられるのであるが、それぞれの大学運営の方針と絡むところなので、一非常勤講師には判断が難しいところである。
2-3年生に対するアンケートの調査と成績の関係も調べたが、私が担当する2-3年生はすべてA大学の情報コミュニケーション学部の学生である。この学部の1年生は私の講義を受けていない。アンケートの結果は学部の特殊性なのか、上位学年に特有の現象かの判断は困難だが、ニート予備軍(「私欲小×社会性小」のグループ)の数が、80%を超えるというきわめて特異な分布を示しており、コミュニケーションに困難を感ずる学生らが入学していることを示しているものと推定される。2-3年生なので当然専門性の高い教育を実施しているためか、私欲優先型学生群の成績の伸びは大きいが、逆に「手や体を動かしながらの協働参画授業」とはなりにくいために、ニート予備軍(「私欲小×社会性小」のグループ)の成績の伸びが芳しくないことが判明している。私はこの学部の1年生の教科を担当していないが、できれば1年生のうちに克服していただきたい問題ではある。この事実=[教室にやってくる2-3年生はいずれもニート予備軍(「私欲小×社会性小」のグループ)が圧倒的に多い(83.0%)]=は、今回の発表のため作業を通じて、私も初めて知ってかなりのショックを受けているところである。
さて、「エイトキュービックモデル」の有効性ははっきりとした。これには、私はかなりの満足である。学生の人生観と成績の伸び率は大きな関係があり、教師が適切な授業戦略を持って講義に望めばかなりの改善が見込めるだろうところは推測できることになった。
しかし、では、では、具体的には、どうするか、、、。来週からの授業をまた一から考え直さなければならないだろう。悩める大学教師の試行錯誤は、まだまだ続くことになる。

たくさんの方のご意見をいただければ幸いです。

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琵琶

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