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アニミズム的情報デザイン説に微笑む--情報デザイン研究ノート(8)

(「鐘の声 ブログ」記事マップ)

2006/6/5
アニミズム的情報デザイン説に微笑む--情報デザイン研究ノート(8)

「情報デザインのワーキング・パスを明かす--情報デザイン研究ノート(7)」では、情報デザインの本質が人間が先天的または後天的に獲得している「推論方法=推論能力」に働きかける営為であることを示した。
この真実を知ってしまうとその後の説明はいかにもけだるい。つまらない言葉の落穂拾いに過ぎないように感じるようである。
言葉の落穂拾いも実は重要なのだが、特に若き学徒は結論をせきたがる。過去の人々による具体的な思考の産物を知らなければ、教師(私)がこともなげに語る思考の成果の重要性がわからろうはずもないのだが、私の出した結論から見ると過去の人の発言はいかにもつまらなく感ずるらしい。
先週の情報デザイン論の講義で私は情報デザインの分野で登場している十数の概念について解説した。解説のトップは「アフォーダンス」である。
ここでは、この概念を例に取り上げて、当たり前の結論が思想の世界ではそう簡単に受け入れられているというわけでもない事実を指摘しておきたい。
私の講義録には次のように記した。
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アフォーダンス(Affordance)
「物体の持つ属性(色、形、etc.)が、物体自身をどう取り扱ったら良いかについてのメッセージをユーザに対して発している、とする考え。」
私--実は、先天的または後天的に形成されている人の推測・識別能力に依存している。
----------------------------------
「アフォーダンス(Affordance)」とは、1966年、心理学者ジェイムズ・J・ギブソン(米・James.Jerome.Gibson)が提唱した、(英)(他動)afford(~を与える)に接尾語-anceを加えて名詞、形容詞化した造語なのだそうである。
ジェームズ・ジェローム ギブソン (著), エドワード リード (編集), レベッカ ジョーンズ (編集), 境 敦史 (翻訳), 河野 哲也 (翻訳)、「直接知覚論の根拠」、418p、勁草書房 (2004)
アマゾンの著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)の記述は、ギブソンのいう「アフォーダンス」を簡潔に表現している。
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ギブソンが提唱したアフォーダンス(「生活体との関係において規定される環境の特性」)の概念は、生活体と環境との相互依存関係を指し示している。ギブソンの思想の根幹を成すのは、認識の対象とは「身体内部や脳で生じる外界の表象」ではなく、外界に存在する事物や事象だとする、直接知覚論である
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「物体の持つ属性(色、形、etc.)が、物体自身をどう取り扱ったら良いかについてのメッセージをユーザに対して発している」"かのように見える"のではなく、受け手の人間がどう考えようと物体自身がメッセージを発しているのだという考えである。あたかも事物に精霊がすんでいるかのような考えである。このようなアニミズムとも言うべき稚拙な考えが科学を僭称して大々的に発表されていたのが、わずか40年ほど前の1966年のことなのだから、人類もそう進歩しているわけではないということになるのかも知れない。アニミズムは数100年前に絶えたことになっているはずなのだが。
科学を神秘主義の衣で飾りたい人は多いので、私のように「頭脳が先天的または後天的に獲得した推論能力によるものだ」とミもフタもないことを言ってしまうと、袋だたきに遭いそうである。
たとえば、手ごろな高さでヨコに張った木の枝の近くに人間が近づくと、思わず木の枝をつかんでしまう行動がみられる。これを、神秘主義を尊ぶヒトはそれは木の枝が持っている神秘的な力である、と言いたいのだ。「ヒトがサルだったころの記憶のなせる行為である」と無粋にいうよりは、"神秘的な力"と謳い上げるほうが詩歌のファンタジーとしてはまことにすばらしい表現である。「眼の高さの宙を横切るモミの木の枝は、私の心を捉えて、私の手を自然にその枝へといざなうようだった、、、そのモミの木の枝には明らかに目には見えない精霊がいた」とでも言えばいいのだろうか。美しい表現だ(私は若いころ、詩作をしたりコピーライタをしていたこともある)。しかし、それは、科学だろうか。
このような神秘主義的考え方を支持する実存主義哲学者がいることは私も知っている。予定調和論者も含まれるが、実存主義からの派生である。私は、これらのヒトを批判するつもりもないしこれらのヒトと論争するつもりもない。敬して近寄らないだけである。彼らは神秘主義者で、神秘に仕える神官の身分がほしいだけなのだと地位も身分もない私は(ちょっぴりひがんで)思うだけである。私のような在野の実践的研究者には縁のない雲上の方たちである。
1988年、ドナルド・ノーマンは、これを人間の主観性に依存するものと主張し、ジェイムズ・J・ギブソンの客観説を否定した。
ドナルド・A. ノーマン (著), 野島 久雄 (翻訳)、「誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論」、新曜社認知科学選書、427p、新曜社(1990)
この説の登場によって、「客観説」はとどめを刺されたかに見えたが、通俗的科学の分野ではそうも行かなかった。もちろん学問的分野ではノーマンは勝利し「主観説」が正統理論として受け入れられているのは間違いがない。しかし、通俗的科学の分野では、以来、ジェイムズ・J・ギブソンの「客観説」とドナルド・ノーマンの「主観説」は長く争われている。詩歌を愛するヒトと科学者の違いのようなものだから、両者には歩み寄るすべはないようだ。
ここにきて、実は、「客観説」を擁護する言説がにわかに露出している。
佐々木 正人 (著)、「アフォーダンス-新しい認知の理論」、岩波科学ライブラリー (12)、117p、岩波書店(1994)
佐々木 正人 (著)、「レイアウトの法則―アートとアフォーダンス」、245 p、春秋社(2003)
エレノア・J. ギブソン (著), Elenoar J. Gibson (原著), 佐々木 正人 (翻訳), 高橋 綾 (翻訳)、「アフォーダンスの発見―ジェームズ・ギブソンとともに」、260p、岩波書店(2006)
ほか
いずれの出版も、ドナルド・A. ノーマンの発表よりも後になされている点に注目すべきである。学問的決着とは別に神秘主義好みのマニアックな読者がこのムード的言説を支持しているのかもしれない。
神秘主義を楽しみたい人は、私などが進めている地を這うような実践的研究とは別の世界の人々である。少し微笑んで、学生やスタッフらとともに少しだけ遠ざかることにしたい。
「主観説」にも最近の大脳研究の成果が反映していないもどかしさと限界を感ずるが、「精霊の実在」を要求するような理論よりはましというべきだろう。私は言ってみれば「大脳の知識処理能力説」論者である。あえて「主観説」という言葉を使用しないのは、「主観的」という言葉には実証的ではないという意味が付きまとうので、これを避けるためである。
私は、ときには甘美にして主観的な詩歌の世界にも酔いながらも、我に返ればあくまでも"精霊は主観的にしか存在しない"と言いたいのである。「大脳の知識処理能力説」の立場は、「アフォーダンス」と呼ばれる現象の客観的なプロセスは脳の神経生理学的活動にあると考えるものである。
「アフォーダンスとは、実は、先天的または後天的に形成されている人の推測・識別能力に依存している」と。


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琵琶

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