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ワーマン「5つの帽子掛け」再考--情報デザイン研究ノート(12)

(「鐘の声 ブログ」記事マップ)

2006/8/17
ワーマン「5つの帽子掛け」再考--情報デザイン研究ノート(12)

前回の記事で、7つのナビゲーションシステムについて書いた。これは、WEBシステムを設計する際には大切な知識たが、経験的な知識であるにすぎないことも説明した。
本質は、WEBページを見る相手の脳に働きかけて、相手の行為に変化を生み出そうとする目的で、WEBページの内部に用意する誘導の仕掛けということである。これを「相手が求めるものをいち早く見つけられるようにするサポートシステム」という言い方をする場合もあるが、実のところ、「相手が見つけたい情報」とは「相手に見つけてもらいたい情報」ということである。この本質を忘れて、経験的知識だけに頼っているものはやがて見限られる。テクニックは知っていても目的を理解しなければ、たいてい顧客の求める目的を達することはできないからである。
さて、以前にもこのシリーズ(情報デザイン研究ノート-2-)には触れたが、情報デザインの開祖のようにいわれるリチャード・S・ワーマン(以降、単にワーマンと記す)の主張するところも、経験的な知識に過ぎない。

彼の著書には、ごたごたとたくさんのことが書かれている。自信たっぷりである。色や形をキンキラキンに飾るのがデザインではないし、ましてや情報でもないと気づいた感激は大きかったろう。しかし、彼以前にそれを知っていた人も多いし、伝統的なテクニカルエディタの多く(私もその一人だった)は、それを当然のこととしていた。一方、それを専門職の知識にとどめず、より多くの人の目に触れるように、通俗的な解説書にまとめたのがワーマンであり、その功績は大きい。やや偏った一部をことさらに取り出して肥大化して見せているのは批判も多いが、わかりやすくする上での(情報デザイン上の)常套手段でもある。私も彼の功績をたたえることにやぶさかではない。罪は彼にあるのではない。彼のその本をバイブルのようにして、そこから一歩も成長しないやからの多いことに私は大いに腹が立っているのである。

Richard Saul Wurman (原著)、金井 哲夫 (翻訳)、「それは"情報"ではない。―無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン 」、エムディエヌコーポレーション、2001年

上記の本の中で、一番有名な部分は、「LATCH--5つの究極の整理棚」(上書、pp.71-74)だろう。このあたりを部分的に引用する。
--------
情報を分類する方法は、いくつもあるわけではない。「位置」、「アルファベット」、「時間」、「分野」、「階層」の5つだけだ。この5つは、家の整理棚から多国籍企業まで、ほとんどあらゆる場面での情報分類作業に応用できる。年次報告、本、会話、展示会、案内板、条約、それに倉庫の整理にだって使うことができる。
(中略)
位置(Location)--出所のちがう情報や、別々の地域からもたらされた情報を比較調査したとき、位置はもっとも自然な選択となる。・・・。
アルファベット(Alphabet)--この方法は、非常に数の多い情報の分類に適している。辞書の見出し語や、電話帳の個人名などがこれに当たる。・・・。
時間(Time)--会議などのように、決められた時間内に行うイベントの方針を決めるときは、次官による分類方法が一番だ。・・・。
分野(Category)--品物の分類に便利な方法だ。商店などでは、通常、品物を分野ごとに分けている。・・・。
階層(Hierarchy)--大小、安い高い、重要性の序列など、程度によって分類する方法。・・・。
--------
これらの頭文字をとってLATCHというのである。これが究極の整理棚だというのだ。なんとまぁ簡単な、と狂気乱舞した情報デザイナや情報の研究者は多かった。結局何かの情報を持ってきても、どれかには掛かるし、これ以外のところには掛けられないという意味で、ワーマンの5つの帽子掛けという呼び名も生まれた。
まってくれ、と私は言いたい。「これだけ」だって! 馬鹿なことを言ってくれては困るというものだ。
大雑把に言えばLocation(場所)とTime(時間)はいいだろう。
しかし、Location(場所)について言えば、地球儀的位置座標(球面座標)と直交座標(デカルト座標)を取り上げておかなければ意味がない。人類史上この二つの概念の発見は大きな意味があったのである。
アルファベットにいたっては、こっけいなくらいだ。日本ではアルファベットではなくて、五十音だろうし、数字の1,2,3,…や、イロハ・・・、天,地,人など、「数詞」や「序詞」には事欠かない。ワーマンの大言壮語はアメリカの文化的貧困がそのまま反映しているような気がする。アルファベットがすべてだって? ・・・、そんなわけがないでしょう、ワーマンさん。
Category(分野)だって? どのようなカテゴリー分けするかはその人の知恵と教養の産物であり、一般論の「分野」なんてものはないでしょう。工業規格の商品分類? 国家規格の産業分類? 何が言いたいのでしょうか。あなたの肩書きのクリエイタという職業の人々はすべて、事物を前にして新たなカテゴライズに挑戦し、人々をアッと言わせて、なるほど! と納得させなければならないはずではないのだろうか。これしかないというようなものではないのである。Category(分野)というならば、カテゴライズの一般原理を述べてもらいたいものである。カテゴライズの原理こそ究極の情報整理術ではないだろうか。何をおっしゃるんですか、ワーマンさん。
階層(Hierarchy)にいたっては、ずいぶんとさびしい解釈である。もともと階層化概念は東洋的思想に根強く存在し、西欧には希薄な概念である。高度な社会構造を作り上げる東洋人と、支配と被支配という2極社会でやってきた欧米人の違いである。冷戦の終わり頃、西洋と東洋の狭間とも言うべき東欧の思想家を中心に、メタ概念(階層構造)が強く主張された。メタ社会学、メタ言語学、メタ哲学、メタ経済学、・・・。このころ、西洋の思想は初めて階層的概念(メタ概念)に目覚めたのである。ところが、一方の東洋は数千年の昔から階層概念を通常の思想に含んでおり、たとえば曼荼羅的世界観を構成していたのである。アメリカ人であるワーマンが階層構造概念を無視しなかったことはたいへん結構であるが、その意味を「大小、安い高い、重要性の序列など、程度によって分類する方法」であると語っているのは、お寒いかぎりである。たとえば、知性ある教養人にとって階層的概念とは次のようなものであるだろう。杉と椿は樹木という上位概念に統合され、樹木と草類は植物という上位概念に統合される。植物と動物と菌類は生物という上位概念に統合される。・・・。これらは、「大小、安い高い、重要性の序列」ではないだろう。共通する概念を抽象化し上位概念とするという知の働きが必要だ。ワーマンさん、もっと東洋の思想を勉強してください。
こら以外には、本当にないのか。
たとえば、大きさの順位、重さの順位、高さの順位、明るさの順位、音の強さの順位、色(3原色や7色など)の分類や順位、色の濃さの順位、動く動かないの差異、速度の順位、・・・、左からまたは右からの順位、上からまたは下からの順位、東西南北の分類、東南西北の方位の順位など、情報の整理棚はもっとたくさんある。しかも場面によってはLATCHなどとは比べ物にならない上位概念として利用されるのである。整理だなをたくさん知っていて、しかも時に応じて新しい棚を発見したりする能力も備えていて、今扱おうとする情報はどの棚を利用して整理するのがよいかを豊かに発想できる人がよい情報デザイナーなのである。5つしか知らなかったら失格である。
ワーマンさんは、おそらく電話帳の編集などいくつかのお仕事の中で知った整理方法だけを頼りにこの本を書いたのだろう。考えの範囲が狭いのは研究者ではないからやむを得ないが、経験の範囲も狭すぎるのではないだろうか。そして全般的な基礎的素養にも乏しいように感じてしまうのは私だけだろうか。お前さんは、自分のことを棚に上げてとワーマンさんにはしかられそうだ。ごめんなさい、しかし、われわれはもっと前に進まなければならない局面にいるので、ワーマンさんを学んだら、その次に進んでゆきたいだけなのである。お先に失礼、ワーマンさん。
生意気な物言いをお許しください。

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琵琶

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