カテゴリー

  • 日記・コラム・つぶやき
  • 経済・政治・国際

« 岩田哲夫氏の個展に赴く--交友の記録(11) | トップページ | 実例、教員資格認定にメンタルテストを--心理、教育、社会性の発達(32) »

学生諸君に、「信頼の原則」を--心理、教育、社会性の発達(31)

2006/11/30
学生諸君に、「信頼の原則」を--心理、教育、社会性の発達(31)

説教強盗という手口がある。
---------------------------------------
(例1)
①ある郊外のマンションの一室に、一人の男が現れた。「ドアの取っ手が壊れている。このままでは泥棒が入るよ」といかにも親切そうである。しかし、唐突な話にこの部屋の主婦は戸惑った。
②男は言い募った。「こんなことを放置していてはダメじゃないか。何とかしなさい。いまどきの主婦は防犯意識が低くて、なってない」と説教を始めた。主婦は「うんうん」と聞いていたが、内心は少し怖かった。「1週間後主人の給料日になったら、工事人を呼ぼう」とも考えた。男は「すぐに直したらどうだ」と畳み込んできた。主婦は手元不如意(お金が足りない)を見知らぬ男に打ち明けるのも躊躇したので、「もう、帰ってください」と小さく言ってみた。外見と違ってパートをやめた後の今の家計は苦しかった。男は怒ったように「なに言ってんだ。お前のところの問題だろう!!」と大声をあげる。主婦はひるんで、立ちはだかっていたドアから中に入ろうと身を引いた。忠告してくれるくらいなのだから悪い人ではないのだろうが少ししつこくてもう相手にしていられないと感じた。
③その瞬間、男はドアの取っ手をつかんで、部屋の中に押し込り、ドアを閉め、主婦の胸元をつかんで、「この野郎、くだらねぇこと言うんじゃねえ。用心しねぇなら、俺が取ってやる。用心しねぇお前が悪いんだぞ。わかったか。このやろう、金を出せ」とせまった。
④--被害額×万円。たまたま手元に多額の金額はなかったので、被害額は大きくなかったのがせめてものの救いだったかもしれない。
⑤この男はこの手の説教強盗の常習犯だった。
---------------------------------------
この男は、一見立派なことを言っているが、無罪だろうか。被害にあった主婦のほうが悪いのだろうか。
イジメ常習犯などの「反社会性人格障害」を持つものは、警告を無視した者が悪いのであって、得をした強盗は偉い、と見るようである。どうやら、これは理屈ではなく、人格障害ゆえの感じ方の問題である。
もちろん、説教強盗は犯罪であり、処罰されるのは強盗のほうである。主婦には罪はない。社会通念上、相手がするはずのないこと(無法なことなど)をしたために生じた被害の罪は相手にあるのである。自分が相手を信頼してうかつにしていたことが罪に問われることは、まったくないか、あってもその罪は軽微とみなされる。これを刑事事件における「信頼の原則」と言う。民事ならば「信義道徳の原則」である。
上記の例では、もちろん男は有罪で余罪もあわせて懲役1年6か月の実刑であった。

さて、次のような例はどうなるだろうか。
---------------------------------------
(例2)
①ある著名な貧乏団体(ソフトウエア著作権協会さん、ごめんなさい)にOと名乗る人物からメールや掲示板への書き込みで、「おたくのサーバには脆弱性がある。このままではハッカーが侵入するぞ」と読みようによっては親切そうな注意が届いた。この手のことは過去にも何件かあり、「ばらされたくなかったら金を払え」というような金品をせびるものばかりだった。団体の責任者は沈黙を続けた。
②この人物の書き込みは次第にエスカレートした。「こんなことを放置していてはダメじゃないか。何とかしなさい。いまどきのwebサイト管理者はセキュリティ意識が低くて、なってない。」と高圧的な書き込みを始めた。webサイト管理者はうなづける部分がないわけではなかったが、内心は金品を要求する者ではないかと警戒を強めた。「2か月後に会費納入時期になるのでお金が集まったら、業者に改修を頼もう」とも考えた。O氏は「すぐに直したらどうだ」と畳み込むように書き込んでくる。webサイト管理者は手元不如意(お金が足りない)を見知らぬ人物に打ち明けるのも躊躇したので、「もう、いい加減にしてください」と心の中で言ってみた。彼の団体は、見かけとは違って業界では有名な貧乏団体で、主催者の個人の貯金を取り崩して運営しているようなところだった。O氏は怒ったように「なにやってんだ。お前のところの問題だろう!!」とばかりに激しい書き込みを続ける。webサイト管理者はひるんで、また沈黙した。自分のサイトの脆弱性を熟知したのはまだO氏だけのようだ。O氏自身がまさか悪いことをやったりはしないだろう。後2か月耐えて、その後改修すればよい、と彼は考えた。
③その直後、O氏はFD(暴露屋)団体の設立総会の壇上で、ソフトウエア著作権協会のサーバに侵入して見せ、取り出した会員の個人情報を会場の出席者などに不法に配布したのである。30分後、巨大な某著名な無記名掲示板に流出した会員個人情報が多数掲示されていた。該当会員の数名にFDグループとの関係が疑われる者がいて、賠償金狙いの計画的犯行との見方も一部にあったが立証困難なので追及はなかった。
④O氏(実はK氏)や世間が思っていたものと異なってこの団体にお金はなかったので、和解の結果、個人情報流出に伴う賠償金はわずかな金額でで決着したと伝えられている。
⑤O氏は大学で教職にありながら暴露屋として有数の犯歴を疑われる存在だった。
---------------------------------------
この男(O氏)は、一見立派なことを言っているが、無罪だろうか。被害にあったソフトウエア著作権協会のほうが犯罪者なのだろうか。
もちろん上記の例は、オフィス氏事件として名高い事件に例をとったものであり、現実のこの事件は判決も確定している。オフィス氏こと河合氏が有罪となったのは知られているとおりである。犯罪を犯したオフィス氏が犯罪者で、犯罪被害にあったソフトウエア著作権協会は被害者である。正常な人格を持つ者の目には当たり前の結論であった。
しかし、イジメ常習犯などの「反社会性人格障害」を持つものは、警告を無視した者が悪いのであって、まんまとやってのけたハッカーは偉い、と見るようである。どうやら、これは理屈ではなく、人格障害ゆえの感じ方の問題である。
もちろん、ハッキングは犯罪であり、処罰されるのはハッカーのほうである。くどいようだが、被害者には基本的な罪はない。社会通念上相手がやるはずのないこと(無法なことなど)をしたために生じた被害の罪は相手にあるのである。自分が相手を信頼してうかつにしていたことが罪に問われることは、まったくないか、あってもその罪は軽微とみなされる。これを刑事事件における「信頼の原則」と言う。民事ならば「信義道徳の原則」である。
有罪。懲役8カ月、執行猶予3年(求刑懲役8カ月)だった。

ところで、私は、学生らに「オフィス氏事件の判決を調べて、その結果の社会的影響を調べよ」という課題を出した。学生らはいつものようにおおわらわで、ネットを調べたり図書館に飛んで行ったりした。グループ課題なので、途中では学生らの討議が頻繁に行われた。キャンパス内のベンチに座って口から泡を飛ばしている学生らに、私は大満足、議論することに大いに意義があるからである。
そのうち、一部の学生らが質問にやってきた。オフィス氏が罪になって、被害団体(ソフトウエア著作権協会)の代表者が罪にならなかったのはなぜかわからないと言うのだ。オフィス氏が無罪で、警告を聞いてもなお無防備だった被害団体(ソフトウエア著作権協会)の代表者が有罪ではないのかというのである。
他大学の教員の中には、同様の主張を(いまだに)する者もいるそうで、それらを引用して私の見解を迫ってきた者もいた。あれあれ、大学でも教授採用に当たってはメンタルテスト(精神鑑定と人格検査)はますます不可欠なようにも思われる。他大学の先生は間違って言い始めた言説を引き下げられなくなってしまっているのだろうか、心底よりご同情申し上げる。よもや、刑法理論の根幹ともいうべき「信頼の原則」をご存知でなかった、ということはないだろう。

信頼の原則 (参考)
被害者・第三者の適切な行動を信頼した場合には,過失責任を負わなくてよしというもの。逆に被害者・第三者の信頼を裏切る行為は、厳しく処罰される。
(補足)技能の高い人が他人の技能不足や知識不足に付け込むことを防ぐという、公序良俗保持上の配慮がこの原理の背景にはあるとされている。

なお、今回の課題は、判決のよしあしや、自分の思想信条を問うものではない。「すでに出されている判決の客観的な影響」を問うものであった。問われていることに解答すること、問われていないことに対する解答は失格である、と学生らには補足して説明した。

法から逸脱しがちな学生は残念ながら漸増している。とっちめようと捕まえてみると「無防備にしている相手に非があるのだから、自分が罪になるはずがない(無防備な奴がいたから、無防備なサイトがあったから、やっただけだ)」と奇妙な言い訳をする学生も少なくない。まさしく「信頼の原則」を踏みにじる言動である。しかし、そこに該当する学生たちはその「奇妙さ」にまったく気づかないようである。
脱法しがちな学生たち、すなわち「仮性の反社会性人格障害」の多くが、「信頼の原則」をしっくりとは理解できない性向を持っているのである。
言い換えれば「人は、スキあらば襲っても良い」と感じているらしいのである。したがってこの学生たちは逆にいつ襲われるかわからない恐怖の中で暮らしていることにもなる。
互いに安心していられるためには、だから、互いに「人は、スキがあっても襲ってはいけない」のである。現代の社会には、この原則(信頼の原則)があるから、ヒトは互いに、「普通は、他人が自分のスキを見て自分を襲ったりはしないだろう」という信頼の下で暮らしているはずなのである。このような信頼がなくては、寝室でもうっかり寝込むこともできやしない、教室でも居眠りなどはできないはずである。
実は、「仮性の反社会性人格障害」の学生は、教室の中でよく居眠りをしている。私の観察では、他の種類の学生に比べると圧倒的に居眠り学生が多いように思う。教師(私)の居る教室の中は、安全で安心できる空間なのだろう。「反社会性人格障害」の学生にとって、他に安心できる空間が少ないのだ。それほどならば眠っていてもよい。ここは、私が守ってあげよう。ただし、私の出した課題はきっちり仕上げてきなさい。毎回君たちに配布する私の講義録には解説だけではなく、当日の課題も載っている。でも時には目を覚まして、私の説明も聞いてみるといいだろう。面白かったら、もっと聞いてみたらいい。情報システムがわかるだけではない。現代の情報社会についても説明しているので、基本的には人が信用できるようになるだろう。わからなかったら、質問してみたまえ、もっと面白くなる。私の話は、実際の社会に入ればうんと役に立つ話ばかりで、ほかではめったに聞けないことに触れている(つもりである)。・・・、牽強付会かな?
さて、「仮性の反社会性人格障害」の本質は「信頼の原則」がまったく抜け落ちている点にある。協調して共存・共生する方略を持ち合わせていないのである。だから、善良な他人を壊して生きようとケモノのごとき生存本能の命ずるままに協調破壊や脱法に及ぶのである。
私は、頑固に "「信頼の原則」を裏切らないことが、倫理、ひいては情報倫理を守る根幹である" と主張したい。
教員は、かれらに「信頼の原則」を教えるべきである。大学でそんなことまで教えなくてはいけないのか、生活指導までしなければならないとは・・・、と、嘆かれることなかれ。小中高の教育でなされてこなかった結果が私たちの目の前に居る学生たちなのである。これを教えずして放置すれば、犯罪者を世に放つことにもなりかねないことを、ここでは特に強調させていただくことにする。かわいい学生たちの将来のために、学生らに今は一瞬嫌われても将来深く感謝される教師になってください。なにとぞ、お願いいたします。

△次の記事: 心理、教育、社会性の発達(32)
http://shyosei.cocolog-nifty.com/shyoseilog/2006/12/32_a120.html
▽前の記事: 心理、教育、社会性の発達(30)
http://shyosei.cocolog-nifty.com/shyoseilog/2006/11/30_57a4.html

琵琶


(補1)「鐘の声 ブログ」はリンクフリーです。ただし、「鐘の声 ブログ」の記事の一部または全部を引用または翻案して、公的に発言または発表される場合は、事前にメール等でお知らせください。[→連絡先]
(補2)この記事が含まれるシリーズの記事の一覧は下記(別サイト)のとおりです。
  心理、教育、社会性の発達シリーズの記事一覧 (GO!)
(補3)ブログ「鐘の声」には、10個ほどのシリーズとシリーズ以外の一般記事があります。シリーズの全体構成やシリーズ別の記事一覧は下記(別サイト)にあります。
  ☆「鐘の声」の全体構成(「鐘の声 ブログ」記事マップ)☆ (GO!)

« 岩田哲夫氏の個展に赴く--交友の記録(11) | トップページ | 実例、教員資格認定にメンタルテストを--心理、教育、社会性の発達(32) »

「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/73834/12555575

この記事へのトラックバック一覧です: 学生諸君に、「信頼の原則」を--心理、教育、社会性の発達(31):

» 期末試験 練習問題 11~14 [absg0808のブログ]
11. 模擬実験(シミュレーション)を実行してみる。  模擬実験(シミュレーション)の意義: ・現象に関する過去の記録や現在に残されているデータを用意する。 ・現象を説明できるかもしれないモデル(仮想の機構や数式)を創ってみる。 ・モデルを基にして、現象を模擬的に出現させる。 ・「模擬的に出現させた現象のデータ」と「現象に関する過去の記録や現在に残されているデータ」が良く似ていれば、モデルは正しいと判定する。両者が明らかに違っていれば、モデルが間違っていると判定する。(講義録9...... [続きを読む]

« 岩田哲夫氏の個展に赴く--交友の記録(11) | トップページ | 実例、教員資格認定にメンタルテストを--心理、教育、社会性の発達(32) »

2016年10月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ