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なれるものなら貧乏でも名医に、ヤブ医者は病(やまい)治(なお)して命を奪う--街に活力を(11)

(「鐘の声 ブログ」記事マップ)

2008/01/20
なれるものなら貧乏でも名医に、ヤブ医者は病(やまい)治(なお)して命を奪う--街に活力を(11)

およそ1年前、東部東上線にのって埼玉県に行ったときの話である。
実は、駅に降りてからタクシーで30分ほどのところに、地球観測センターという施設がある。国が進めるリモートセンシング施設である。当時、私の会社のスタッフはこのセンターのシステムの改修作業にあたっていた。そのせいで、私も頻繁にここを訪れていた。この仕事はたいへんエキサイティングな部分があって、なかなかのドラマだった。ほとぼりがさめたころ、いろいろと書きたいことがあるが、今はこれには触れない。
何度も通っているうちにタクシードライバーの何人かと顔見知りになり、親しくなった人もいた。
ドライブの途中には、人家もあり、ところどころ街になっている場所もある。大手の私立大学のキャンパスの横を通過するところもある。しかし、目に入るものは、圧倒的に田んぼであり、畑である。すばらしい田園地帯だ。
「いいところですね、心が洗われるようだ」(私)
「都会から来た人は、そういいますね」(運転手さん)
「住んでいる人には、よくないってこと?」(私)
「貧しいですよ、・・・、農家には後継者はいないし、畑は荒れるしね」(運転手さん)
「もしかして、運転手さんは農家の出身?」(私)
「わかりますか。後を継ぎたくてもね、農家じゃ、お金が稼げないし、仕事はきついし、ごみは捨てられるしネェ」(運転手さん)
「でも、タクシー業界だってそう楽じゃないんでしょ」(私)
「そうなんですよ。でもね、農家やろうと思ったときには、畑が畑じゃなくなっていたんですよ」(運転手さん)
「畑が畑じゃないって、何?」(私)
「・・・、お客さん、10分くらい時間ありますか」(運転手さん)
「うん、今日は少し早めに来たからね」(私)
「メーター降ろしておきますから、ちょっと付き合ってくださいよ」(運転手さん)
「いいよ」(私)
「見てもらったら、わかりますけどね。農家が丹精していた土地が、まるで台無しなんですよ。あそこにもここにも見えますよ。ほら、遠くからではわかりにくいでしょうけれど、ゴミの山ですよ。重金属だの得体の知れない油だのが入っているんで、ゴミをどけてもとても作物は作れないんです」(運転手さん)
「本当だ、・・・、ひどい・・・」(私)
「あの小川の向こう側がうちの農地です。いや、うちの農地だったところです。夜、人気がなくなったころ、ゴミを捨てにトラックがやってくるんです。小川沿いの道を整備したあとのことです。道がよくなるって、親父は喜んでいたんです。道路際の土地も喜んで提供しました。しかし、道の整備が終わったら、2か月もしないうちに、畑の3分の一はゴミに埋まっていました。はじめは、父ちゃんと母ちゃんでゴミを片付けて、土壌を入れ替えたんです。耕運機で耕して、明日は種まきしようと言っていた晩に、またトラック5台分くらいのゴミが積まれていたんです。役所に言っても、地元の政治家に言っても、なしのつぶてだったです。ただ、ゴミを片付けるのは地主の責任だってことは皆が言っていましたから良く分かりました。片付け切れませんから、今ではあきらめて、されるがままになっています。この一画だけで8反あります。もう全部がゴミの山になっています。実は、もっと奥に残った畑が5反くらいあるんで、父ちゃんと母ちゃんは今はそこを耕しています。父ちゃんと母ちゃんは、年もとったし、そんなに多くの畑はやれないしナ、と言ってます。去年の暮れに、素性がよくわからない不動産業者という人が突然やってきて、このゴミバタケを一坪100円で買うというんで、父ちゃんと母ちゃんはハンコを押したといっていました。どうせお前らは畑仕事なんかやんないだろうしよ、と言っていました。失ってみると、悔しいです。取り返せるなら取り返して、ドライバー辞めて農家になってやりたいって気持ちもないわけじゃないです」(運転手さん)
運転手さんの目は涙で光っていた。
見渡せば、真新しい道路に接している畑には点々とゴミ置き場が見られる。
農家は、疲弊している。体力を失った人体には感染症の細菌やウイルスが取り付きやすいように、体力を失った耕作地にも豪腕の簒奪者がひそかに侵入し、むさぼり、患部を次第に広げているように見受けられた。

もしも、耕地と農家を再生させるのであれば、性急に道路を整備したり、施設を誘致するなどの行為は殺人行為に等しいだろう。その行為は、体力の弱った病人を、いきなり切開したり、移植手術するのとよく似ている。良かれと思ってしたことでも、患者が死んでしまう公算は大きい。病(やまい)治(なお)して命を奪う、ということである。
これらの耕地を元に戻したり、新しい農業の発信基地にしたいならば、まずは、農家や農業法人が、その地で大きく利益が上げられて、体力を回復し、元気な耕地にすることが先決である。農家に余力が生まれれば、ゴミの不法投棄に対抗するフェンスを設置したり、投棄されてしまったゴミを撤去して土壌を入れ替えたりすることもできるようになる。今は体力がないから、対策も進まないのである。
人間でも、手術する前は、体力を回復するための安静期間を設けて、食事療法や点滴などで養生し、ころあいを見て施術にはいるものである。
ヤブ医者は、病(やまい)治(なお)して命を奪うが、名医は術前に十分な養生を勧めるのである。
耕地の再生には、新しい品種、施設栽培、植物工場、農家が主人公となるファーマーズマーケット(農家経営のオープンマーケット)などが、有効である。体験型市民農園の導入も観光農園もよい。体力回復のためには、これらの処方に沿って、我慢強く耕地の運営をし、その後、域外車両の侵入防止柵、ゲート、フェンス、道路整備などが進められるべきである。順序を誤れば、病(やまい)治(なお)して命を奪うことになりかねない。段階的手順が必要である。
世間には権威を振りかざすヤブ医者ばかりが威張っているように見えて、名医は目立たない。ヤブ医者はもうけて、名医は貧乏をしている。ヤブ医者は高額医療を施してまた病を作り出してゆくが、名医はお金のかからない医療で健康な人を増やすからである。
まぁ、いいさ、ヤブ医者には言わせておけ。私は、なれるものなら、貧乏な名医を目指そう。・・・、私は、心に誓った。

「運転手さん、5反もあったら、年収 1,800万円くらいになる農業のやり方があるんだ。こんど、機会があったら、そんな農業のやり方を教えてくれる専門家を紹介するよ」(私)
「えっ、本当ですか」(運転手さん)
農家出身の運転手さんは目を大きく見開いて、振り返った。

どういうわけか、あの運転手さんとはその後会えていない。どうしているだろうか。

△次の記事: 街に活力を(12)
(準備中)
▽前の記事: 街に活力を(10)
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琵琶

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