人工知能に見る知能の構造
-知能を育てる(その3)--心理、教育、社会性の発達(56)
2008/03/14
人工知能に見る知能の構造
-知能を育てる(その3)--心理、教育、社会性の発達(56)
ミニシリーズ: 心理、教育、社会性の発達「知能を育てる」(全6回)
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1."スキルvsナレッジ"でもなく"知vs識"でもなく
-「知能を育てる(その1)」--心理、教育、社会性の発達(54)
2.楽しく越える「知性なき丸暗記」の限界
-「知能を育てる(その2)」--心理、教育、社会性の発達(55)
3.人工知能に見る知能の構造
-「知能を育てる(その3)」--心理、教育、社会性の発達(56)
4.ヒトの知能の構造と知能教育
-「知能を育てる(その4)」--心理、教育、社会性の発達(57)
5.レインマン(サヴァン症候群)に見る小脳の能力と大脳の能力
-「知能を育てる(その5)」--心理、教育、社会性の発達(58)
6.個性もいろいろ知能もいろいろ
-「知能を育てる(その6、番外編:)」--心理、教育、社会性の発達(59)
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さて、「知能を育てる」とはどんなことなのだろうか。このことについては百家争鳴である。しかし、いろいろな書物を読んでもしっくりこないのは私だけだろうか。「知能を育てる」ことを解説する人たちが説いているのは、その人の哲学だったり、宗教だったり、信念だったり、空想だったりするような気がしてならない。つまり、科学ではないような気がするのである。
それば多分知能のそのもの、知能の構成、すなわち知能構造をだれも説明していないからに違いない。
私も、知能と社会性の関係については、このシリーズで、何度も解説してきたが、知能そのものについては述べていない。
知能と社会性の関係については下記を参照のこと。
「記憶」の社会性--心理、教育、社会性の発達(3)
ぼんやり考える力と階層的思考能力--心理、教育、社会性の発達(25)
情報デザインのワーキング・パスを明かす--情報デザイン研究ノート(7)
知能の構造が何の躊躇もなくここに説明できれば、それほどうれしいことはない。しかし、進展目覚しい大脳科学でもそこまでは到達していない。
そこで、ここでも、私は、コンピュータ科学の知識を援用したいと思うのである。
コンピュータ科学の一分野である人工知能(認知工学)では、一般的な「知能」を下記の図のように理解している。
図はクリックすると大きく表示される。上半分の図(a)は、ヒトの知能を極端に単純化した模式図、下半分の図(b)が人工知能の概念図である。
(下図をクリックすると図を大きく表示することができます)
下半分の図(b)に注目することにしよう。左から名称を挙げる。
(イ)Q&Aインターフェイス(ヒューマンインターフェイスとも言う)
(ロ)推論エンジン
(ハ)知識ベース(知識のデータベース)
(ニ)知識獲得部
(ホ)知識獲得インターフェイス
人工知能のコンピュータシステムは、おおむね、「(ハ)知識ベース」が必須条件である。
「知識」という言葉に似ている用語には、「データ」や「情報」がある。
人工知能システムの世界で使われているこれらの意味を列記すると次のようになる。固定した定義はないので、よく使われる意味という程度にご理解をいただきたい。
「データ」…計測した事実を数値や記号で表したもの
「情報」…「データ」を人にわかりやすく整理(代表値や比較値を駆使)したもの
「知識」…「情報」に条件分岐が付いており、問い合わせに即時にこたえられるようにしたもの
かくして、「知識ベース」とは「情報」に条件分岐が付いており、問い合わせに即時にこたえられるようにしたものを容易に入力・編集・検索・削除できるようにまとめられた集まりのこと、すなわち「知識のデータベース」という意味になるのである。知識のデータベースは、条件分岐の付いた大量のデータ、すなわち大量の知識とそれらを容易に入力・編集・検索・削除できるように作成された膨大なプログラム群(データベースマネージャ)からできているのである。
「(ハ)知識ベース」を中心に、その周辺を説明しよう。
「(ロ)推論エンジン」は、「(b)人工知能の知識処理」の図では、「(ハ)知識ベース」の左側にある部分である。ここは、人から問い合わせがあったときに知識ベースから答えを見つけるために知識ベースの中を探って歩くプログラムの集まりがある。この部分がなければ、どんな知識が蓄えられていても、それを引き出して答えを出すことはできない。
「(イ)Q&Aインターフェイス(ヒューマンインターフェイスとも言う)」は、「(b)人工知能の知識処理」の図では一番左、「(ロ)推論エンジン」のさらに左側にある部分である。ここにはアイコンや入力欄、図像やグラフの表示、音声入力や音声発生の機能を実現するプログラムやオブジェクトが複雑に組み合わせられて用意されている。ヒトが質問を思いつきやすく入力しやすい環境を用意し、ヒトからの質問を確実に受け取り、推論エンジンにこんぴゅーが理解する形式にして正しく渡すことが必要である。また、逆に推論エンジンから帰ってきたコンピュータ西川からないような答えをヒトにわかるように変換しそれだけではなく心を沸き立たせるようにするための言葉や画像やグラフ音声などの機能が働くようなプログラム群も用意される。
さて、人工知能は役立たずと思っている方もいらっしゃるが、他方何でもできるすごい奴と思っている人もいるようだ。どちらも間違いである。かなり役に立つが、いまのところヒトに比べればかなり馬鹿でもある。
役立たずのところを特に取り上げてみると、「知識の獲得が基本的には自動的にはできない」ということである。えっ、そんな馬鹿なの? と言うなかれ。今のところ、「知識の獲得はほとんど人間にしかできない」といってよいのである。ニューロネットワークや遺伝的アルゴリズムを取り上げて、知識獲得できる能力があるという方もいるが、せいぜい条件分岐のフルイ分けの精度を上げることができる(ニューロネットワーク)だけだったり、複数知識の組み合わせを変えてそのどれが最もよさそうかを決めることができる(遺伝的アルゴリズム)だけだったリする。新しいフルイを作ることもできなければフルイ以上の働きをすることもない(ニューロネットワーク)し、よほどそれらしく仕組まないと変異は生まれず「予期せぬ遺伝子が生まれる突然変異」を作り出すこともできない(遺伝的アルゴリズム)、つまり創造的活動はできないのである。
「(ニ)知識獲得部」…「(b)人工知能の知識処理」の図では、「(ハ)知識ベース」の右側にある部分である。しかし、「(ニ)知識獲得部」は、実は書いてはあるものの、とても小さなもので、通常はないといってもよいくらいである。その代わりに知識を入力・検索・編集・削除しやすいインターフェイスが用意される。
「(ホ)知識獲得インターフェイス」…アイコンや入力欄、検索ボタンなどが用意され、それらを操りながらナレッジエンジニアと呼ばれる人々が知識ベース(知識のデータベース)に書き込んだり編集したり、削除したりしているのである。なんとも原始的であるが、これが人工知能の現状なのである。
さて、図には書ききれていないが、コンピュータの知識ベースにはたくさんの種類がある。
代表的なものを列記すると次のようになる。
(あ)プロダクションルール
IF分を羅列するようなもの。演繹的推論に適している。
(い)意味ネットワーク
ワードとワード間の意味のつながりを記述するもの。連想を記述するのに適している。
(う)事例ベース
ヒトのエピソード記憶に相当するもの
(え)フレーム&予期駆動型フレーム
階層的概念構成を記述でき、与えられた条件によって動作すべき手順も記憶できる。「最強の知識記述法」といわれることがある。
(お)その他
コンピュータ技術者がこれらのものを編み出したのは、ほとんどの場合、ひたすら自分の思考行動を内省するところからであった。脳科学はまだこのあたりを解明しえていない。1956年ダートマス会議にて、ヒトのように考える機械を作ろうと討議したのが現代的な人工知能の出発点である。「ヒトのように考える機械」とはとりもなおさず「自分のように考える機械」というように置き換えてよいはずである。何しろ自分も「ヒト」なのだから。
しかし、ヒトによって考え方がまちまちで、いろいろな考え方があり、どうやら同一のヒトの中にも併存しているらしいことがわかってきた。たぶん提案されている知識ベースは全てヒトの考え方の一部なのに違いない。ヒトの脳はこれらの多様な考え方とそれに適した記憶を持っていて、必要に応じて使い分けたり補強しあっていたりするらしいということになる。一方、ヒトによってはそれらの考え方のあるものは決して受け付けない場合や特定の考え方だけが格別に優れているヒトもいるのである。私は、意味ネットワーク的な思考パターンが得意で階層的知識をたどるような思考パターンを一切取れないヒトに出くわしたことが若いころに2度ある。一つの事柄が想起されると、関連する事柄が次ぎ次と出てくる。すばらしい記憶力だが、とどのつまり何が言いたいのか、聞いている私にはさっぱりわからない。「で、結局、私は何を理解すればよいのでしょうか」と聞き返すと、また最初からつながりのある事柄が洪水のように繰り返し述べられるだけである。お二人とも大学教授の肩書きを持つ方であったことはびっくりした。一人は日本人、他の一人はアメリカ人であった。どちらの場合も、周囲のヒトは「彼は頭がよすぎるので、我々には理解不能なのさ」と言っていた。そうかも知れない、、、そういうことにしておかないと、なんとも言いようのない不安が湧き上がる。知識を階層化して蓄えることのできないヒトがいるということは少なくとも私にとって驚愕だったのだが、後に大学や専門学校で教壇につと、それはそれほど珍しい現象ではないこともすぐにわかった。大学教授のお二人とは違って、洪水のように連想ができるほど知識はないが、乏しい知識とはいえそれらを階層化してまとめ上げることができない学生はいくらでもいた。いな今もどんどん増殖していると言っていいかもしれない。
ヒトの知能ということを考えると、知識ベースの構造にも立ち入らなければならないだろうと思う。この構造はその人の社会性と対を成しているということはこの記事の冒頭に引用したように繰り返し私が述べてきたとおりである。
さて、それでは、ヒトの知能の構造はどうだろうか。その問題はこのミニシリーズの次の記事にに譲る。
次の記事: 心理、教育、社会性の発達(57)
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琵琶
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