組織のイノベーションを阻(はば)むもの、突破するもの 「イノベーションと独創力(4)」--独創力の創り方(23)
2009/09/01
組織のイノベーションを阻(はば)むもの、突破するもの 「イノベーションと独創力(4)」--独創力の創り方(23)
ミニシリーズ「イノベーションと独創力」(全?回)
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1. "イノベーション" は "テクニカル・イノベーション"か
「イノベーションと独創力(1)」--独創力の創り方(20)
2. まわる、マワる、目が回る~~、官僚用語の"イノベーション"
「イノベーションと独創力(2)」--独創力の創り方(21)
3. クリステンセンの"Innovator"
「イノベーションと独創力(3)」--独創力の創り方(22)
4. 組織のイノベーションを阻(はば)むもの、突破するもの
「イノベーションと独創力(4)」--独創力の創り方(23)
5.未定
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(1)技術革新はしばしば組織の壁につぶされる
技術革新がうまく行けば組織のイノベーションもうまく行くという誤解は多い。技術革新がイノベーションのことだと思ってしまう"とんでも"さんがいるのが混乱の元であるが、技術革新はあくまでも「テクニカル・イノベーション」であって、イノベーションではないのである。
「イノベーション」とは、もともと国民経済の基盤である国家規模の社会経済体制の内的な飛躍的進化のことで小さな組織の進化のことことではなかった。ましてや技術革新ではなかったことは、これまでも述べてきた(1、2、3.)。
さて、ここでは、社会も「組織」であるという抽象化を行う。企業もボランティア団体も行政組織も趣味のサークルも「組織」である。組織はより小さな組織の組み合わせによって大きな組織にもなるという構造をしている。この社会の構造モデル(社会のモデル by 飯箸)は、すでに何度か掲載してきているが、このミニシリーズの後の記事の中でも触れることにする。
技術革新がうまく行っても組織のイノベーションがうまく行くという保証はない。技術革新の提案は、どんなに良いものであっても、しばしばわからず屋の大群の前に敗退してしまう。技術革新と組織のイノベーションは別物なのである。
(2)組織の保守性はどこから来るのか
新しい提案は、技術革新の提案であろうと経営方針の提案であろうと、組織にとっては基本的には同じである。どんなに良い提案でもこれに抵抗することも多い組織の保守性とはどこから来るのだろうか。
組織はその外とのいわば「温度差」で生きられたり死んだりするのだが、外界の温度のほうが高ければ黙っているだけでエネルギーが流れ込んでくる。外界よりも自己の温度が高かったらエネルギーは流出するばかりである。努力しなければ生き残れない。自己の温度を下界より下げて過ごせば楽なのである。
志の低い組織は、生き残り安く、志の高い組織は生きにくいのである。
志の低い集団は物も言わずに生き残る--感性的研究生活(10)
このような事実は、数式モデルで説明ができる。
飯箸泰宏、メンタルパワーモデルによる組織の局所安定領域、情報コミュニケーション学会第3回全国大会発表論文集、pp.43-44(2006)
以下には、この2006年の学会発表の内容に沿って、組織の保守性、志の高い集団が生き残る方法、鎖国政策がかろうじて成功する理由なとについて解説する。
(3)問題意識
まず、組織とは定常流的実在で有り、きわめて危ういバランスの上で維持されていると考える。
崩壊しそうな組織もたくさんある。企業・大学・諸団体にとって、最強の組織であり続けることは焦眉の課題である。無自覚の組織崩壊は被害が大きい。
しかし、えてして、組織は無自覚のうちに崩壊の危機に直面する。リーダの任務は、組織の局所安定領域を見極めて、必勝の陣形を常に再構築することである。
局所安定領域は常に複数存在する。必勝の局所安定領域はどこか、座して死ぬ局所安定領域にその組織は嵌っていないか。脱するにはどうすべきか。
というのが、問題意識である。
(4)メンタルパワーモデルの提案
組織とは定常流的実在であり、きわめて危ういバランスの上に存在している。
人と人のつながりの上に作られていながら、その要素たる人は他の組織にも同時に所属しているし、その上、脱退したり、新規に参加してきたりもする。
生き残る組織もあるが崩壊する組織も多い。従来言われてきた強さ、硬さ、大きさという尺度だけでは、生き残る組織を見つけることは困難である。
開放系の熱力学に習って、熱量に対応するメンタルパワーという「量」を導入することによって、組織の局所安定領域を発見することができることをここでは示すことにする。
(5)”湧出なし”のモデル(モデル1)の場合
a)このモデルの説明
組織Oの中に、ある”志”のグループがあるとする。単純のために、モデル1では、”志”が高いが、常に知が湧き出してくる源泉(thought leader)のようなものはないと仮定する。
そのグループのメンタルパワーの総量をPとする。
メンタルパワーPは一般に次のようにあらわされるものとする。

任意の”志”グループを取り上げ、グループ間の干渉がないと仮定すると

ここで、
![]()
と仮定する。
この仮定によれば、メンタルパワーが大きければ、組織率が1に近づく。すなわち100%に近づく。メンタルパワーが小さければ、組織率が0に近づく。すなわち0%に近づくと考える。
b)時間がたつと組織率はどんなふうに変化するか
ρOはO内の比メンタルパワー伝達速度。ρO ≧0と仮定できる。
実数の範囲で(1)、(2)から、組織率 を求めると次のようになる。
0≦C≦(1/4)
q について解くと

q < 0 はありえないので、q ≧ 0 のみを考える。
時間 t → ∞ の場合を求めると、以下のようなグラフが得られる。

c)結果の解釈
・孤立する組織や社会(グラフ中央の縦線部分)は、安定する可能性がある。
ある意味で、鎖国政策は成立する。一定の組織率に終息し安定化する。
・周囲よりも”志”が高い組織または社会(グラフの左半分)は一時半分を収め
ることが出来ても、常に破綻する運命にある。
正直者のロバは疲弊し、良貨は悪貨によって滅ぼされる。
→”志”が高い組織または社会が生き残るには、モデル2をまたなければな
らない。
・周囲よりも”志”が低い組織または社会(グラフの右上)で、初期に過半数を
占めているグループは、全員を一つにまとめることに成功する。「過半数を超
える抵抗勢力」はモノも言わずに生き残る。犯罪者だけの集団、不良グルー
プは放置されれば安泰である。
・周囲よりも”志”が低い組織または社会(グラフの右下)で、初期に過半数を
占めていないグループは、かならず、消滅する。善良な市民の前に引き出さ
れた犯罪者集団、不良グループは解体する。
(5)”湧出あり”のモデル(モデル2)の場合
a)このモデルの説明
モデル1の(1)式にメンタルパワー湧出の項を追加する。これは、常に知が湧き出してくる源泉(thought leader)が存在することを意味している。

b)時間がたつと組織率はどんなふうに変化するか
この場合も同様に時間 t → ∞ の場合を求めると、以下のようなグラフが得られる。

c)結果の解釈
まず、モデル1との大きな違いは、次のとおりである。
・メンタルパワーの比湧出率が、環境から影響を受ける割合よりも大きい場合
(赤丸の部分)は、”志”が高い組織または社会が生き残れることを示してい
る。
すなわち、周囲よりも”志”が高い組織または社会であっても、メンタルパワ
ーの比湧出率が環境から影響を受ける割合よりも大きい場合は、生き残れ
ることを示している。
この場合、正直者のロバは報われて、良貨は悪貨を駆逐する。
悪のthout leqaderが出現すれば、それも安定化につながることにも注意は
必要である。
そのほかの特徴は以下の通りである。
・孤立する組織や社会(、グラフ中央の縦線部分)は、安定する可能性がある。
ある意味で、鎖国政策は成立する。
・周囲よりも”志”が低い組織または社会(グラフの右上)で、初期に過半数を
占めているグループは、全員を一つにまとめることに成功する。「過半数を超
える抵抗勢力」はモノも言わずに生き残る。犯罪者だけの集団、不良グルー
プは放置されれば安泰である。
・周囲よりも”志”が低い組織または社会(グラフの右下)で、初期に過半数を
占めていないグループは、かならず、消滅する。善良な市民の前に引き出さ
れた犯罪者集団、不良グループは解体する。
・メンタルパワーを常に湧出させるとは、リーダが優れて知の開拓者であるか、
メンバーが環境から良く学び、知を作り出して共有する力を持っている場合
のみ可能である。
(6)組織(社会)の維持に不可欠なもの
上記の2つのモデルの結果をみると高いモラルを組織が維持するのは、志を常に湧出する人々の存在が不可欠であるということである。
それでは、組織のイノベーションは、いかにして実現するのだろうか。
このモデルの結果は、そのことを直接示していない。せいぜい、志を常に湧出する人々がいなければ、外界の温度以下に押し下げられ、周囲よりもモラルの低い集団としてその残骸をさらし続ける以外にないということである。そのような低モラル組織にイノベーションの機会は生じないし、イノベーションを興そうと熱意をもつ一定数の人々が生まれたとしても、最初から過半数になることなどは考えにくいので、たちどころに周囲から熱を奪われてその支持を失い少数派になり、やがて消えてゆく運命にあることを示しているのである。
たとえ、外界よりもモラルの高い組織であっても、一層の高みに自己の組織を飛躍させるのは容易なことではない。一層の高みに自己の組織を飛躍させようとするイノベータたちが、多数派にならない限りは、志の高いそのインフォーマルグループはたちまち解体の危機にさらされ、熱を奪われ、組織の補償能力(埋め合わせ能力)によって闇に葬られてしまう。
組織の熱い壁に阻まれて、臍をかんだ経験は、誰でも一度や二度あるものだと思う。
志の高い少数者が、多数者になるとき、組織のイノベーションは成功する。
これは技術の優劣とは無関係な事実なのである。
(7)組織破断の場合
このメンタルモデルを用いると、強引なリーダーシップは、組織の破断を引き起こすこともはっきりと示すことができる。
この点については、上で取り上げた発表論文に先駆けて発表された資料に基づいて解説する。
飯箸泰宏、『組織破断限界シミュレーションの試み』、SH情報文化研究会・明治大学情報科学センター共催、2005.12.10
(8)二グループモデル(モデル3)
モデル1、モデル2は、組織の中の1つのグループに着目したモノだったが、ここでは2つのグループの存在を扱うことにする。

a)二グループモデル(モデル3)の数式表現
簡単のため、二グループはその周囲とのみ影響しあい、直接の二グループ間には影響関係がないと仮定すると次のような数式表現が可能である。

b)二グループの共存領域
2つのグループの組織率qb, qaは足しても高々100%を超えないので、ブルーの網の範囲となる。

c)二グループの共存領域をメンタルパワー空間に射影する
組織率はヒトの心にどのような印象の強さを与えているのだろうか。メンタルパワーを軸にとって二グループの共存領域の写像を生成すると、以下のようになる。射影は「a)二グループモデル(モデル3)の数式表現」から得られる。

d)誤った強引ターダシップ
若くして社長に就いたベンチャーの雄などにありがちになことだが、組織が誤った戦略(b)の中にいることに気付いた時、心に映る組織率のインパクトのままに、これを是正しようと強力な指導力を発揮しようとするとどのようなことが起こるだろうか。
下の図を見ればわかりやすいかもしれない。今我々は、左上の矢印の起点、すなわち組織が誤った戦略(b)の中にいると仮定しよう。

心に映る目標は右下の矢印の先端である。矢印の起点から矢印の先端に一直線に進みたくなるのは、急いた心には当然である。しかし、ブルーの網の部分は組織率からみて社内で組織を分け合うことのできる領域であるが、中央から右上に広がる白い部分は、「a戦略支持者の組織率」と「b戦略支持者の組織率」を加えると100%を超えるあり得ない領域である。実際この領域に突入しかけるけることは組織においてはしばしば発生する。・・・外部勢力を引き入れるということである。こうなるとその組織は泥沼であり、分裂と停滞は避けられない。通常は組織破たんである。売り上げは十分あるのに、否、十分あるからこそ、組織の内紛で会社倒産に至るというのは、この白い領域に突入することによって起こるのである。
矢印の起点から矢印の先端に一直線に進むと、ややっ、赤くは焦れたマークの付いている部分で白い部分に飛び出してしまう。組織の破たんである。
誤った「b戦略支持者の組織率」が過半数を超えているときには、強引なリーダシップは組織破壊につながるのである。こんな時、外野は「リーダは無能だ」というのだが、本当に無能で手をこまぬいているだけのリーダである場合と、矢印の先端に迂回してでも到達しようと腐心している老獪な社長の場合とがあるのである。
e)老獪な社長
上記のような組織破断の危機に瀕したとき老獪なリーダは、どんな手段をとるだろうか。
方法は2つある。
1.「a戦略支持者」だけで作る「社長企画室」や「社長戦略室」を創
る。
こうすれば、「社長企画室」や「社長戦略室」の中だけを見れば、
「a戦略支持者」が少数派になることはない。徐々にその周辺
に「a戦略支持者」を増やして、全社の意見を「a戦略支持」に変
えてゆこうというものである。
今回の新政権が設立を企図している「国家戦略室」は政治行
政改革のための同様の戦術である。
場合によっては、「社長企画室」や「社長戦略室」ではなくて、
全く別の会社にしてしまうことも考えられる。子会社や別会社を
作ったり、「a戦略支持」にふさわしい別会社を買収してしまうこ
ともある。
このような「社長企画室」や「社長戦略室」、子会社や別会社を
「舵の舵」、トリムタブにたとえることもできるだろう。
2.百花争鳴を創る
2つのグループが張り合っていたら、多勢に無勢、多勢の「b
戦略支持者」に「a戦略支持者」は負けてしまう。そこで、老獪
な社長は、a案、b案ばかりではなく、c案もd案も、無限にたく
さんありうるだろう案をできるだけ数多く検討しようと提案す
る。
場合によっては専務や常務にもよく言い含めて協力を願う場
合がある。
専務はc案、常務はd案という具合である。
さまざま意見が出て、意見発表会で堂々の発表がたくさん出
るようになったころ、各案の組織率はすべて過半数に達して
いない状態になっているはずであり、そうなるように仕向けな
くてはならない。
そのころ合いを見計らって、老獪な社長は、「今こそ、我々
は、a案にて全力で進むべきである」という大号令を発するの
である。
他に多数を占める別案がなければ、小異を捨ててリーダに
従うのはヒトの正常な心の働きである。
かくして、老獪な社長は成功するのである。
(9)組織のイノベーションの成功条件
組織は微妙なバランスの上に成り立っている。機械やブロック塀のように固定されたものではなく、定常流的実在である。
組織がイノベーションに成功する条件は、私が考え付く限りでは、次の2つである。
・不断に学習し、志が途切れることなく湧き出すモラル創造的組織であること
・短絡的リーダではなく、若々しい頭脳と老練な手腕をもつリーダが組織を正しく導くこと(トリムタブを利用すること、または、百花争鳴を現出させること)
「イノベーション」と「テクニカル・イノベーション」の違いを説明しようとずいぶん遠くまで来てしまったが、イノベーション=組織のイノベーションとはどんなものか、お分かりいただけただろうか。
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琵琶
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