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スパコンによる脳シミュレーションの進展について--感性的研究生活(87)

2018/04/19
スパコンによる脳シミュレーションの進展について--感性的研究生活(87)

友人から次のような記事が紹介された。リンク先の記事はいつまでも存在するという保証はないので、ここに採録しておく。
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2018年04月18日 15時00分 公開
MONOist 医療技術ニュース:
ヒトの脳全体をシミュレーション、1秒間の神経回路の処理を5分で再現
理化学研究所は、次世代スーパーコンピュータで、ヒトの脳全体の神経回路のシミュレーションができるアルゴリズムの開発に成功した。メモリを省力化し、既存のスパコン上での脳シミュレーションを高速化できた。
[MONOist]

 理化学研究所(理研)は2018年3月26日、次世代スーパーコンピュータ(スパコン)で、ヒトの脳全体の神経回路のシミュレーションができるアルゴリズムの開発に成功したと発表した。同研究所計算科学研究機構の佐藤三久氏らによる国際共同研究グループが開発。新アルゴリズムは神経回路シミュレーター「NEST」の次期公開版に搭載される。
 新アルゴリズムは、シミュレーション開始時に、電気信号を送るかどうかの情報をあらかじめ計算ノード間で交換し、各計算ノードが必要とする電気信号のみを送受信できるようにした。
 その結果、無駄な送受信がなくなり、電気信号を神経細胞に送るか送らないかを判定するメモリも不要になった。これにより、神経回路の規模が大きくなっても、1計算ノードあたりのメモリ量は増えず、省メモリ化できた。
 新アルゴリズムの導入により、次世代スパコンで脳全体のシミュレーションが可能になり、従来のスパコンでの脳シミュレーションも高速化できる。2014年に行われた5億2000万個の神経細胞が5兆8000億個のシナプスで結合された神経回路のシミュレーションは、1秒間分の神経回路のシミュレーションに28.5分を要したが、新アルゴリズムでは5.2分に短縮できた。
 今後、次世代ハードウェアと最適なソフトウェアを組み合わせることで、数分間の時間スケールで起こるシナプス可塑性や学習のような脳機能に関する研究が可能になる。また、次世代スパコンでヒトの脳全体の神経回路をシミュレーションし、脳の情報処理や脳疾患の機構の解明への貢献が期待できるとする。

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従来と新アルゴリズムによるシミュレーション可能な脳の規模とスパコンの規模(クリックで拡大) 出典:理化学研究所
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この分野に名前を付けるとすれば「計算機脳科学」ということになるのだろう。
基本的には脳細胞をすべて孤立して対等なものと想定したシミュレーションなので、現実の脳とはまだ千里の道のりが隔てられている。まだ、相当に低レベルである。
おそらく、この仕事に取り組んでいる研究者の皆さんは、悪夢のような「ディープラーニング・ブーム」に取りつかれていて、脳全体の構造にまで知恵が回っていないに違いない。「ディープラーニング・ブーム」は確かに一部では輝かしい成果を上げ続けているが、脳の一部、おそらくは小脳の機能の一部を真似しているだけである。小脳にもディープラーニング類似の機能のほか大脳の知識をバックアップする機能などまだ不完全ながらわかっている機能がある。ディープラーニングは大脳の高度な機能を真似しているわけではないし、大脳と小脳の連動について手かがりにさえ遠いのである。
現実の脳は、複雑にモジュール化されていて、階層構造とネットワークが組まれている。
孤立して対等な脳細胞がいくつ集まってもそれだけでは高度な知識や判断能力は生まれない。自己組織化されて現実の脳相当の階層構造とネットホークが生まれて、モジュール化が出現するアルゴリズムが想定できるのかがカギとなるだろう。これは生体の脳の発生と分化、成熟のシミュレーションと重なるので、分子生物学(量子生物学?)の成果を利用することになる。
その自己組織化アルゴリズムの追求とは別に、現にある脳の構造を模倣するアプローチもあるだろう。こちらは脳科学の成果を利用することになるので、脳科学の進歩が必要である。
実は、日本には脳の発生分化、成熟を研究する研究者も脳科学の研究者も極端に少ない。「脳科学会」すら存在しておらず、周辺学界を束ねた「日本脳科学関連学会連合」があるだけである。「ほんまでっかTV」でおなじみの脳科学澤口俊之氏も専門は認知神経科学と霊長類学であり、脳科学ではない。本人は「脳科学評論家」であると名乗っている。確かに脳科学評論家は質の良しあしは別に多数いる。なぜ、日本では脳科学者が育たないのか、なんとも情けない。
しばらくは、まだよちよち歩きの「計算機脳科学」がそれぞれの研究者が仮想する自己組織化アルゴリズムと脳構造仮説に基づいて研究が進むのだろうが、生物学的ブローチの研究者の飛躍が望まれる。
かつてたんぱく質の研究では同じように計算機タンパク質化学が先行した時期があった。それはほんの15年ほど前までのことである。しかし、今や山中教授の汎用細胞などが自在に狙うべきたんぱく質を生み出すことができるようになって、地位は完全に入れ替わっている。計算機タンパク質化学の必要がなくなったわけではないが、成果の出るコストパフォーマンスが逆転したのである。
私はいわば計算機屋なので、初めから負けを言うようでおかしいかもしれないが、生物界33億年の進化の到達点は人間の現在の浅知恵をはるかに超えている。生物がたどった自然の摂理をもう一度人類がスーパーコンピュータ上で再現できれば、「計算機脳科学」がその役目を終えたことになるはずなのである。
生物史と物質史の摂理に学ぶ謙虚さがなければ科学の進歩はないと私は思う。
 
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琵琶

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