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飯箸の発表「創造力の作り方3--知識の構造」-第79回SH情報文化研究会--感性的研究生活(129)

2018/09/18

飯箸の発表「創造力の作り方3--知識の構造」-第79回SH情報文化研究会--感性的研究生活(129)

ミニシリーズ「第79回SH情報文化研究会」
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<1>概要-第79回SH情報文化研究会
<2>飯箸の発表「創造力の作り方3--知識の構造」-第79回SH情報文化研究会
<3>質疑応答 on 飯箸の発表-第79回SH情報文化研究会
<4>情報交換会(懇親会)-第79回SH情報文化研究会
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<2>飯箸の発表「創造力の作り方3--知識の構造」-第79回SH情報文化研究会

9月16日(日)、「北とぴあ」で行われた第79回SH情報文化研究会で、私は「創造力の作り方3--知識の構造」という演題でお話ししました。
ここには、実況中継風に、講演を再現したいと思います。

お忙しい中、この会場にお越しくださりました皆様に御礼を申し上げます。
お約束の時間となりましたので、早速 第79回SH情報文化研究会を始めさせていただきます。
最初は私のお話です。
「創造力の作り方3--知識の構造」についてお話いたします。

「創造力の作り方3--知識の構造」(スライド番号No.1)

1
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このところ私は「創造力の作り方」というタイトルでシリーズで講演しています。
今回はその3番目ということになります。
主に「知識の構造」についてお話いたします。
私のお話は、この後に発表されます加島さん、大岩先生などの前座という位置づけになりますので、軽めにまとめたいと思います。

自己紹介(スライド番号No.2)

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演者紹介のスライドは説明を飛ばします。この会場の中にいる方で私のことを知らない方はほとんどいないと思います。
もし初めての方がいましたら、お手元にスライドを印刷してお配りしたありますので、ご覧いただければ幸いです。

目次(スライド番号No.3)

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このスライドは講演資料の目次ですが、こんな流れでお話しさせていただくというものです。これも、説明は飛ばします。
次のスライドから実質的な内容が始まります。

1.はじめに--創造の ❝構造❞(スライド番号No.4)

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最初から詳細をお話ししても、なかなか分かりにくいものなので、はじめは相当大雑把にお話いたします。
こちらのスライド(No.4)を見てください
「知識の構造」と聞いてもピント来る方は多くはないと思います。
まず、知識は、たくさんの基礎的で要素的な知識とそれらを組み合わせた高次構造から成立しているという事実があります。
このスライドの右半分にその様子(一例)が書かれています。

知識の高次構造の例
20181114
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この図は、一例として人々が意識することができる知識の高次構造の中では最もポピュラーな構造を取り上げたものです。この構造では、知識は様々な関係によって結び付けられていることが分かりますが、縦に結ばれたメタ関係と横へ斜めに縦横無尽に結ばれたネットワーク関係から出来上がっています。いわば知識の縦糸ともいうべきメタ関係とこれを束ねている横糸のようなネットワーク関係から出来上がっているということができます。
ここでは、メタ型のつながり(リンク)を直線の矢印、ネットワーク型のつながり(リンク)を曲線の矢印で示してあります。
以下では、「メタ関係」と「ネットワーク関係」のそれぞれについて説明いたします。

1)メタ関係(縦型の構造、知識の縦糸のようなもの)
まず、基礎的で要素的な知識は星形で書きました。基礎的で要素的な知識は星の数ほどあるという意味を込めて星で示してみました。基礎的で要素的な知識同士を観察すると共通の性質(属性)が見つかります。
例えば、たまたま着目した基礎的で要素的な知識が「黄色の花がついた たんぽぽ」だったら、「黄色い花が咲く植物」の一員であることが分かります。基礎的で要素的な知識の上位に「黄色い花が咲く植物」という概念(~カテゴリー)を作ることができるということです。「黄色い花が咲く植物」という概念(~カテゴリー)には「たんぽぽ」のほかに「黄色のチューリップ」や「レンギョウ」や「黄色のダリア」も入っています。他にもたくさんの黄色い花がありますからこの中に入れることができます。
さて、一方、植物学で言うと「たんぽぽ」は「キク科」という分類に入ります。キク科という概念(~カテゴリー)には「たんぽぽ」「菊」のほかに「あざみ」「きんせんか」「コスモス」「ははこぐさ」「ひまわり」などたくさんの植物が入ります。キク科以外には「バラ科」「モクレン科」「マンサク科」などたくさんの「科」がありますね。これらをまとめて「双子葉植物」という上位概念を作ることができます。他方には「単子葉植物」もありますから、「双子葉植物」と「単子葉植物」をまとめて「被子植物」という上位概念を作ることができます。「被子植物」とその相方の「裸子植物」を合わせた上位概念が「植物」です。動物も同じような上位概念をたどった最上位が「動物」です。「植物」と「動物」と「菌類」をまとめて言う上位概念が「生物」です。
このように上位概念に次々にまとめられてゆく概念の上下関係をメタ関係と言います。下位の概念は縦のつながりで上位概念に分類されていて、下から何番目にあるかの階級もしばしば意識されます。メタ関係が強固な意味(内包)と範囲(外延=当該概念に含まれる下位概念の範囲)の関係を構築するので、間違いのない推論(演繹推論や帰納推論)には大層役に立ちます。

2)ネットワーク関係(横型の構造、知識を横へ斜めに縦横無人に結び付ける知識の横糸のようなもの)
知識のよくある高次構造には、これとは別の関係もあります。基礎的で要素的な知識同士が「類似」、「例示」、「対比」、「比喩」あるいは「同時刻性」や「同位置性」「同一発話者が話題にしたことがある」などなどによって概念間のつながりを作ることができますし、あるいはメタ関係の縦割りや階級を無視して基礎的で要素的な知識とどこかの上位概念が結びついてしまうこともありますし、上位概念同士もメタ関係の縦割りや階級を無視して結びつくことがあります。これらの一見乱脈に見えるつながり(リンク)の全体をネットワーク関係と言います。メタ関係が強固な意味の関係を構築するのでかえって硬直化しやすく、新しい分類が作りにくかったり、組換えがしにくい側面があります。ネットワーク関係は既存のメタ関係とは無関係にあちらこちらと結びつきますので、いわば「連想」することの範囲が広くその数もほぼ無数にあります。柔軟に知識の構造を組み替えるにはこのネットワーク関係が大いに関与していると考えられます。

2)大雑把なまとめ
まとめていうと、知識の高次構造は、おおむね「メタ関係」と「ネットワーク関係」から成立しているということです。
しかし、ここで、お断りしておきたいのは、知識の分類や高次構造の形は、これ以外にもたくさんあるということです。「メタ関係」と「ネットワーク関係」はヒトが意識できる知識の構造の最もポピュラーで大事なものの一つですが、他にもいろいろとあるということを指摘しておきます。

3)知識の多様な高次構造
抽象化された宣言的な知識(概念)による統合(メタ関係による、つまりメタフレーム型の統合)のほかに、エピソード記憶のような逐次的な記憶もあります。このスライドの右の図に緑色の右向き矢印と四角が混じったような図形がその逐次的な記憶(たとえばエピソード記憶)を意味しています。逐次的な記憶(たとえばエピソード記憶)にも階層化が成立していますが、作り方はメタフレーム型の統合とは少し異なります。
今取り上げた「メタフレーム型の統合」と「逐次的な記憶」はいずれも「宣言型」の知識の高次構造です。知識の高次構造には、「宣言型」以外に「手続き型」があります。

「宣言型」以外に「手続き型」の知識の構造の例
Photo_2
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知識の構造を「手続き型」と「宣言型」の二つに分類して、低次元から高次元の構造化とそれぞれに該当する知識の構造の名前をまとめたものがこのフレームの左下にあります。
知識の構造化にもいろいろなものかあるのだということをお判りいただければ幸いです。

2.創造の仕組み(スライド番号No.5)
ここでは、「創造」がどんなとき、どんな風に起こるのかをまとめます。

2-1. 創造の ❝時❞(スライド番号No.5)

5
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創造とは、ひとつ前のスライド(No.4)のような知識の高次構造が再構築されて高度化することを指していると考えられます。
さて、こちらのスライド(No.5)は、創造がどんな "時" に起こるのかをまとめたものです。
〇1.目標(目的)をもって、熱中して外界を忘れて没頭しているとき
〇2.レム睡眠時(外部遮断+セロトニン+シータ波 <--> 知識間のリンクの脳内再構築)
〇3.瞑想時(外部遮断+セロトニン+シータ波 <-->知識間のリンクの脳内再構築)
△4.覚醒時の考え事(表向きやることが多いので、バックで少ししかできない)

1)目標(目的)をもって、熱中して外界を忘れて没頭しているとき
クリエイティブな仕事をされる方は、誰しもその経験はあるでしょうが、仕事に没頭しているときには、外界の音も視界に入るはずの景色や人の姿も全く気にならなくなっているものです。外界からくる情報をことごとく遮断して脳内では、こうやったらこうなる、こう考えたらこうなると脳内では目まぐるしく活動が行われています。こんな時、「お父さん、ご飯ですよ」などと言われても「うるさい。黙っていてくれ」と叫びたくなってしまうものです。こんな状態が、「1.目標(目的)をもって、熱中して外界を忘れて没頭しているとき」に相当します。

2)レム睡眠時(外部遮断+セロトニン+シータ波 <--> 知識間のリンクの脳内再構築)
ノンレム睡眠時には体の臓器や筋肉の疲れをいやして不足した栄養素を補給し、血液も脳よりは身体臓器に回して体力の再生が行われています。レム睡眠時は、逆に身体臓器の回復活動は一時休止して、覚醒時に乱雑に詰め込まれた知識を整理して筋の通った高次構造に再構築するための時間になります。血流も脳に向かって潤沢に送られます。レム睡眠時には、すでに寝ているので、外界から情報はすっかり遮断されいてセロトニンによってリラックスして「脳内創造活動」に専念できるというわけです。これが「2.レム睡眠時(外部遮断+セロトニン+シータ波 <--> 知識間のリンクの脳内再構築)」に相当します。

レム睡眠のイメージ図(画像はhttps://bit.ly/2s9K2s6より引用)
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3)瞑想時(外部遮断+セロトニン+シータ波 <-->知識間のリンクの脳内再構築)
瞑想は、訓練によってレム睡眠と同じ身体精神状態を作るもので、ここでも外界の情報を遮断してセロトニンによってリラックスして「脳内創造活動」に専念できるように計画して実行するものです。これが「3.瞑想時(外部遮断+セロトニン+シータ波 <--> 知識間のリンクの脳内再構築)」に当たります。

瞑想のイメージ図(画像はhttps://bit.ly/2sf8xn2より引用)
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4)覚醒時の考え事(表向きやることが多いので、バックで少ししかできない)
覚醒時にも、「あぁ、これだった」と突然良い考えが生まれることがあります。
したがって、たまには創造活動をしていることが認められますが、瞑想やレム睡眠、仕事に熱中しているときほど効率的とはいえません。
「夢見がちの人」を除いて、普通に覚醒していると外界からの刺激的で新しい情報が次々に入ってきて、何らかの応答が要求されるので、脳内の創造活動がほんのわずかしかできないのです。
覚醒時にも創造活動は行われますが、没頭、レム睡眠、瞑想などに比べると効率は低いと言わざるを得ません。「4.覚醒時の考え事(表向きやることが多いので、バックで少ししかできない)」の頭に△がついているのは、そのためです。
覚醒時に創造(脳内再構築)を行おうとするならば、漫然と考え事をするのではなく、本を読む、他人の意見を聞く、など外部から新しい知識を取り入れることが良いと思います。新しい知識や概念が飛び込んでくると、ヒトはまず、何か関連する既存の知識がないか脳内を探索します。既存知識と新しい知識を結びつけないと安心できないからです。これはチャンスです。脳内再構築が一気に進んで、「これだ!」と思い至ることがままあります。

5)強烈な目的意識
ところで、肝心なことは「没頭」「レム睡眠」「瞑想」でも、「覚醒時の創造活動」でも強烈な目的意識を持っていなければ、目的に適う創造活動は起こらないということです。無目的に快感瞑想にふけっているだけならば、怠惰な妄想しか生まれないでしょう。
強烈な目的意識を持ったまま瞑想(これを知的瞑想という)したり、レム睡眠に移行しない限り、目的意識を瞑想中やレム睡眠中の脳が勝手に掻き立てたりすることはないからです。
瞑想にも3つの種類があることをこのスライドの下半分には書いています。
 ①自然発生的瞑想(人が普段している瞑想)知的成果は気まぐれ
 ②恍惚瞑想(呼吸集中法など、恍惚感だけしかない)知的成果は低い
 ③知的瞑想(自問瞑想法、前提として豊富な知識と先鋭な問題意識)知的生産性が高い
これらについては、前回の「創造力の作り方2」でもお話いたしましたので、詳しくは申し上げません。

2-2. 創造に必要なもの(スライド番号No.6)

創造に必要なもの
6
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今度はこちらのスライド(No.6)です。
このスライドには、脳内創造活動を活性化する "条件" の主要なものをまとめました。
 1.生存活動サイクルに燃える
 2.覚醒時に問題意識を高める
 3.知識の構造を知る
 4.脳内再構築活動を行う

1)生存活動サイクルに燃える
覚醒時に問題意識を高めていないと「没頭」、「レム睡眠」、「瞑想」などでも「脳内創造活動」は起こりにくいとNo.5のスライドで説明しました。
覚醒時に問題意識を高めるには、生存活動サイクルを熱心に回すことです。つまり一生懸命に生きてゆくということです。一生懸命に生きれば、問題にぶつからないことはありません。問題にぶつかったら、チャンスです。知識が足りなかったのであれば、情報収集に全力投球します。計画が失敗していたのであれば計画を練り直します。実行の仕方が悪かったのであれば練習を重ねたりやり方を改めて再度実行します。
生存活動サイクルの重要さは、「創造力の作り方1」で詳しくお話ししています。
問題発見は「生存活動サイクルに燃える」ことなくしてはあり得ません。

2)覚醒時に問題意識を高める
覚醒時に問題意識を高めるには、生存活動サイクルに熱心に取り組むだけでは足りないことがあります。その時には「自問自答」、「チーム討議」、「賢者との対話(賢者との質疑応答)」、「公開論争」が大いに役立ちます。声に出してその問題を説明するだけで、ハッとその回答につながってしまうこともあります。公開論争が一番強烈ですが、はばかられる場合には、 「チーム討議」や「賢者との対話(賢者との質疑応答)」が有効です。

3)知識の構造を知る
知識の構造、とりわけ高次構造を知っていることは、創造を起こす際に重要です。修練を積むと、今自分の中で何が起こっているのか、何が足りないのか、どの段階なのかを察知することがある程度できるようになります。
本日は、この「知識の構造を知る」ためのお話をしています。次のスライド以降もお楽しみいただきたいと思います。

4)脳内再構築活動を行う
ひとつ前のスライドで、「創造(すなわち脳内再構築)がどんな "時" に起こるのか」を述べました。
これを見ればわかりますが、「寝ずに考える」とかはあまりよろしくないことが分かります。
生存活動サイクルのただ中で、夢中になって没頭していれば脳内再構築はやってきます。
しかし、目的をもって、没頭していても生身の人間は必ず疲れて寝てしまいます。
ノンレム睡眠で体を休めた後でないと、脳内再構築の時間であるレム睡眠はやってきません。強烈な目的意識を体にしみこませたら時間をたっぷりとって寝ているとレム睡眠はやって来ます。レム睡眠の間は脳内再構築が活発に行われます。
昼間の寝る時間でない時には、問題の個所を箇条書きに大書して、これを心の中で呟きながら目を半分閉じて問題点について思いめぐらせていると次第に周りの音が気にならない、見えても気にならない状態になれば瞑想状態です。寝ているように見えて、頭の中はフル回転、こうすればよいのか、ああやればいいのか、根本的に考えを改めるべきなのか、心は自由闊達に動きます。このときも脳内再構築が効率よく行われます。
覚醒時に創造(脳内再構築)を行おうとするならば、本を読む、他人の意見を聞く、など外部から新しい知識を取り入れることが良いと思います。新しい知識や概念が飛び込んでくると、ヒトはまず、何と関連する既存の知識がないか脳内を探索します。既存知識と新しい知識を結びつけないと安心できないからです。これはチャンスです。脳内再構築が一気に進んで、「これだ!」と思い至ることがままあります。

2-3. 創造の際の知識の構造変化(スライド番号No.7)

創造の際の知識の構造変化
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こちらのスライド(No.7)には、創造が起きるとは、具体的にはどんなことが起こるのかをまとめたものです。
ヒトの知識の高次構造はこのスライドの右の図のようなものです。最初に掲げた図と同じもので、たくさんある知識の構造の中の典型的なものを選んでいます。全部がこれと同じではありませんが、これを見ながら説明を聞いていただくと、イメージがわきやすいと思います。
創造が起きるとは、
(1)無駄な結合が省かれる/新たな結合が生成する。
(2)無縁に思われていたばらばらの知識が結合して構造化(逐次化orメタ化)する。
(3)コンストラクショナル・シンキングが行われる。
というようなことです。

1)無駄な結合が省かれる/新たな結合が生成する。
「無駄な結合が省かれる/新たな結合が生成する」という現象はレム睡眠時に起こることを脳科学は示すことに成功しています。瞑想や没頭においても同じだろうと推測されています。

2)無縁に思われていたばらばらの知識が結合して構造化(逐次化orメタ化)する。
これは、多くの方が体験していることと思いますが、「3か月前のあの事と機能のあの事が一晩寝て過ごしたら、見事につながって矛盾なく説明ができるようになっていた」というようなことが起こることです。
これが起こるのは、没頭時、レム睡眠時、瞑想時、覚醒時で、それぞれの特徴については前にお話しした通りです。

3)コンストラクショナル・シンキングが行われる。
これは、要素的知識を元にしてその部品に分解していったり、部品を基に元の要素的知識を再構成したりすることを意味しています。
部品に分解するのは、要素的知識の下に展開する方が自然で理解しやすいかも知れませんね。抽象化された上位概念に統合されてゆく有様とは逆のように感じられると思います。
さて、いろいろな要素的知識をそれぞれ部品に分解してみると共通部品があることに気づきます。共通部品だけでは賄えない当該要素的知識に固有の部品もあります。特定の共通部品が使われている要素的知識をまとめてゆくと、共通部品ごとのくくりが作られますが、これは、よく見ると上位概念に統合されてゆく有様とよく似ています。
部品への分解なので下に下にと展開したものを、上下ひっくり返してみると、まるで抽象化された上位概念に統合されてゆくありさまとそっくりの形が出現することに気づかれるでしょう。コンストラクショナル・シンキングと抽象化・具象化の概念構造と内容は同じではないのに形がよく似ていることに気づかれると思います。知識の高次構造の面白いところです。

4)創造活動の引き金
ところで、創造活動は
 a)新たに得られた知識情報が(1)(2)(3)の引き金になることもある。
ので、新しい要素的知識を日々取り入れるひと(社会人になってもよく勉強する人)は良く創造する傾向があります。
また、繰り返しになりますが、
 b)外界の情報が遮断された没頭状態や瞑想状態またはレム睡眠時に起こりやすい。
のも現実です。

5)余談--SE・プログラマーがコミ障になりやすい理由
私の会社にはSE・プログラマーがかつてはたくさんいました。私もそうですが、仕事に没頭しているときに、他人から話しかけられるのはとても嫌なものなのです。話しかけると「ちょっと待って、もうちょっとだから・・・」と返事が返ってくることが普通でした。何を「待って」ほしいのでしょうか。SE・プログラマーは毎日、仕事時間中は四六時中、新しい作品を作り出しています。去年と同じものを作るということはありません。同じものでよいなら、コピーするだけで作る必要がないからです。新しい作品を作り出すには、瞬間瞬間新しい考えを生み出してゆかなければなりません。一段落するまでは、外界からの思考の擾乱を受けたくないのです。だからSE・プログラマーは「ちょっと待って、もうちょっとだから・・・」となるわけなのです。
クリエーターは創造行動に埋没すると、外界の情報を遮断します。SEもプログラマも熱中しているときは外界の情報を遮断するということです。
逆に言うと、SE・プログラマは他人とのコミュニケーションを嫌うようになり、コミ障(コミュニケーション障害)になりやすいとも言えるのです。

3.知識の構造(スライド番号No.8)
ここでは、関連する学問分野それぞれから見た知識の構造を取り上げます。

3-1. 心理学と人工知能と脳科学(スライド番号No.8)

心理学と人工知能と脳科学
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さて、いよいよ知識の構造の詳しい説明に取り掛かることにいたします。
とはいえ、この問題は自然科学の範疇で解明しきれているかと言えばまだ道半ば、いな、まだ道は遠いという状況です。

1)知識の構造を扱う学問分野など
この問題を扱う学問分野・技術分野はこちらのスライド(No.8)のように3つあります。
 ●心 理 学
 ●人工知能
 ●脳 科 学
扱っているものは同じはずなのに対象の呼び方もアプローチも異なります。
 ●心 理 学 → “記憶” ←文学研究型アプローチ
 ●人工知能 → “知識” ← 仮説検証型アプローチ
 ●脳 科 学 → “脳機能” ← 解剖学的アプローチ

2)対象の名前
心理学では「知識」とは言わずに「記憶」と言います。
私は人工知能の世界の人間ですが、「知識」と言います。
脳科学は、私にとっては門前の小僧のお経みたいなものですが、「記憶」とか「知識」とかあまり区別せずに言われる傾向があります。しかし、それは、分かりやすく言うための方便で、脳科学の人々の真意は「(解明したいのは)脳の機能」ということだろうと思います。

3)アプローチの方法
アプローチについてもずいぶん違いがあります。

・心理学
心理学のアプローチの特徴は「文学的なアプローチ」という点にあります。
心理学は文学に隣接して発展した学問です。世界の大学の歴史をたどってみても最初の心理学科は「文学部心理学科」です。小説に現れる/表したい自分の心の動きや登場人物の心の動きの理由や訳を知りたいというのが動機です。研究者が自分の心の内面を内省することや他人の心の動きを推測することが研究の核心でした。エビデンスはわが心にありという極めて主観的な学問だったといってよいでしょう。今ではアンケートを取ったり客観的観察を繰り返してエビデンスを集める努力を行っていますので、疫学的手法を取り入れているということになりますが、ルーツの気風はなかなか変えられないもので、相変わらず文学的アプローチがなくなっていません。

・人工知能
人工知能のアプローチの特徴は「仮説検証型のアプローチ」という点にあります。
人工知能は、心理学や脳科学(以前は「大脳生理学」)の知識を土台に、本物のヒトの脳を推測してモデルを作って、システムを作って、稼働させて「人間のように考えることができたかどうか」を検証して、「人間のように考えることができた」と判定されればそのモデルを残して、「人間のように考えることができなかった」と判定された残念なモデルは捨てられるということを繰り返してきました。
コンピュータプログラムというものは、どんなものでも作れてしまうので、数千、数万、もしかすると数十万のモデルが作られて、死屍累々の中て゛生き残ったものが今使用されている「知識の構造」のモデルということになります。
「知識の構造」のことを「知識表現」という言葉で言い表すこともあります。

・脳科学
脳科学のアプローチには様々なものがありますが、基本的な性格は「解剖学的アプローチ」と言ってよいでしょう。
脳科学は、ヒトの脳の損傷がその人の思考や行動にどのような影響を及ぼすかを基本にして、ヒト以外の哺乳類、例えばマウスの脳に電極を埋め込んだり、fMRIで脳細胞の活動度を測ったりしますが、脳を可能的に細かく分解してそれぞれの脳の小さな部分がどんな機能を担っているかを探るアプローチをしています。ここでは大雑把に解剖学的アプローチとしておきますが後のページに脳科学で用いられているアプローチの一覧を掲げます。

4)まとめ
アプローチの方法が異なれば、当然、見えているものが異なってしまいます。以降では、それぞれについて説明します。

3-2. 心理学の「記憶の分類」(スライド番号No.9)

心理学の「記憶の分類」
9
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こちらのスライド(No.9)は、心理学で用いられている記憶の分類の基本形です。もう亡くなりましたが、心理学の世界的権威のスクワイアさんが作った分類が基本になっています。同世代の別の方が提唱した「自伝的記憶」や「展望的記憶」もこの表には含めました。
私は、かつて、この分類が手も気に入らなくて、スクワイアさんの分類の改定を何度も試みて、「スクワイア飯箸モデル」を提唱しました。特にメタ型の高次構造がごっそり抜けているのが気に入りませんでした。

飯箸(&スクワイア)の記憶の分類2017「推論方法に科学を(2)」--独創力の創り方(29) 2017/08/12
http://shyosei.cocolog-nifty.com/shyoseilog/2017/08/-2017-2--29-1fa.html

尊敬する偉大なスクワイア氏の分類モデルをできるだけ生かして分類を完成させようと苦心惨憺していたものですが、今ならば、スクワイアモデルにとらわれることなく、人工知能研究の立場から独自の分類案を提出するところです。

現代の心理学の記憶の分類(スライド番号No.10)

現代の心理学の記憶の分類
10
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こちら(No.10)には直近1-2年の間に様変わりした心理学世界の記憶の分類方法です。おそらく、スクワイアさんが亡くなったので、くびきが取れて自由な改変が進んだものと思います。
偉人であったが故の罪の部分もなきにしもありませんね。
しかし、相変わらずメタ関係が除外されていて、心理学の限界が露呈しています。今回の説明に深い関係はありませんので、詳しい説明は致しません。

3-3. 人工知能の「知識表現」(スライド番号No..11)

人工知能の「知識表現」
11
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いよいよ、このスライド(No.11)から、人工知能における知識の構造についてお話いたします。

1)ブリタニカの「知識表現」(=「知識の構造図」)
このスライドの左下にある表を見てください。表の左半分(クリーム色の部分)はイギリスの権威あるブリタニカに掲載されている(人工知能の)「知識表現」の種類です。「知識表現」とは、人工知能の分野で知識の構造をコンピュータにとって分かりやすいように書き表した表現法という意味です。見た目で言えば「知識表現」と「知識の構造(の図)」は同じものです。
ブリタニカは、現場の事実を知らない伝記作家などが自分の理解できた範囲で書いているのではないかと思います。挙げられている分類が少なすぎます。

2)飯箸の「知識表現」(=「知識の構造図」)
現場の事実を私の独断と偏見で表にしたものが表の右(若草色の部分)です。私ばかりではなく、1980年代から人工知能に携わっている本物のAI技術者ならば問題なく同意されるものと思います。

3)まとめ
いずれにしても、脳科学の進歩が追い付いていなかったので、システム開発者が仮説を立てて実装して検証したものの集大成なのです。
ブリタニカの分類と飯箸の分類を比較してみてください。似ているが異なる部分も少なくありません。

(1)人工知能における宣言的表現例(スライド番号No.12)

人工知能における宣言的表現例
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1)「宣言的知識」と「手続き型知識」
知識の高次構造は、大別すると「宣言的知識」と「手続き型知識」の2つに分けられます。
「手続き型知識」は "こうすればこうなる or こうしたからこうなった" という運動動作に関連の深い知識ですが、「宣言的知識」は概念を整理してコミュニケーションすることに向くように作られている知識です。
こちら(No.12)は、「宣言的知識」の構造のあれこれです。

2)述語論理
左上には「述語論理」と呼ばれる知識の表現方法の例が書かれています。
「鳥は卵を産む」
「爬虫類は卵を産む」
「哺乳類は赤ん坊を生む」
「人間は赤ん坊を生む」
などの記述になります。

述語論理の例
Photo_5
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3)ユニット表現
上の真ん中には、「ユニット表現」という知識の表現方法の例が載っています。記入式のメモカードのある種のフォームにも見えますね。
人間は、「事物とその属性」または「様相と事物」というコインの裏表のような関係づけで「そこにあるモノ」を把握しています。
事物名をユニットのタイトルにしますので事物名のタイトルの下に属性(または様相)を列記したものがユニット表現になります。属性(または様相)については、それぞれの種類別にスレッド(行)が決まっていて、種類を表す「スレッドの名前」とそのスレッドの中に入れるスレッド値が決められるようになっています。
たとえば、スレッジ名=「産生」のスレッド(行)には、スレッド値=「卵を産む」が書かれます。
「述語論理」と「ユニット表現」は、知識の構造化の基になるもので、基礎的で要素的な知識の形を反映していると考えられます。

ユニット表現の例
Photo_6
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4)事例表現1
右の一番上の2行は事例表現の例を示しています。
一行の左半分は日本文の述語表現が書かれていて、右半分には英語の述語表現が書かれています。
この例は、「野菜は体に良い」という日本語の文と「Vegetables are good for you」という英語の文は相互に行き来できる関係になっている事例です。つまり、「野菜は体に良い」という日本語の文があったら英語では「Vegetables are good for you」と表現すれば良く、逆に英語で「Vegetables are good for you」という文があったら日本語では「野菜は体に良い」と表現すればよいことを意味しています。
ここに、日本語で「水泳は体に良い」という日本語があったら、どんな英語表現をすれば日本語と同じ意味になるのかを推測してみましょう。えっ、2行目に答えが書いてあるって? 下の行の英文表現を私たちは知らなかったとして話を進めてゆきます。上の行の事例表現を基に "文法はともかく" 上記事例に照らして、「Xxxxx are good for you」という英文の枠組みをそっくりそのまま利用できるでしょう。Xxxxxの替わりに水泳を意味する「Swimming」を使えばよいですね。ただし、Vegetablesは複数、Swimmingは単数なので、areはisに換えなければなりません。この方針で入れ替えると「Swimming is good for you」となって立派な英語になりますね。
このやり方は、実際には事例表現をデータベースに入れて検索して加工するものなので、事例ベース推論と言っています。ヨーロッパで成功を収めている形態素解析を使う自動翻訳よりも、日本語と英語などのように日本語と欧米語の間の翻訳では、この翻訳の方法を用いれば はるかに高い精度の翻訳ができることが知られています。
形態素解析で日本語が絡む自動翻訳をするのであれば、まずは日本語の文法を日本語話者の誰もがが納得しうるように作成することから始める必要があります。実は日本語の文法がまだ偽物(たとえば橋本文法)しかなくて本物を作っていないからです。

事例表現1の例
1_2
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5)事例表現2
事例表現1では、事例表現の左右が述語表現でしたが、述語表現の替わりにユニット表現を当てはめても事例表現を作ることができます。ここに書かれている例では、「すずめは鳥である」ことを表現しています。この場合、「鳥はすずめである」とは言えないので、矢印は一方向になっています。

事例表現2の例
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6)フレーム表現
このスライドの中では一番大きな図がフレーム表現の例です。
スライド左下にあります。
マービン・ミンスキーのアイディアを基に、私が世界で初めて具現化したものですが、今では一般的なものとなっています。
ちなみに、マービン・ミンスキーはご存知のように「人工知能の父」と呼ばれた方です。
この図にたくさん書かれているユニット表現のような記入式カードをここではフレームと言います。フレームのタイトルはここでも事物名が採用されます。
この表現の特徴は、ユニット表現のようなフレームの記述が複数連なって構成されるところにあります。ユニット表現では、事物の名前につながる属性のスレッドリストにあるスレッド一つ一つに、それぞれの「値」が書かれていましたね。例えば「体表」というスレッドに「羽毛でおおわれている」という値がかかれるということです。フレームでは、この値ごとに、別のフレームを書くことができ、新しいフレームの事物名はひとつ前のフレームのスレッド値の一つと同じものということになります。
この仕掛けを使用すると、上位のフレームの複数の属性それぞれについて、その内訳を別のフレームに書くことができるようになります。新たに書かれた別のフレームの属性それぞれにもさらに別のフレームを書くことができます。こうして、末広がりの概念の階層構造(メタ構造、メタフレーム)を書くことができるというわけです。

フレーム表現の例
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7)意味ネットワーク
このスライドの右下、今取り上げたフレームの右側に書かれている図を見てください。さまざまな言葉が、"is-a" や "act"、"color" などの結合子で結ばれています。言葉の間の上下関係はありません。
これは、知識の高次構造に含まれているネットワーク関係を映し出しています。知識の高次構造では、メタ関係の縦割りや、抽象化の高いもの低いものにとらわれずに関係がありそうなもの同士がネットワークを作ります。この知のネットワークを模したものが意味ネットワークというわけです。

意味ネットワークの例
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「 6)フレーム表現」と「 7)意味ネットワーク」の2つで、知識の高次構造のあらかたは表現できることになります。

以上で「宣言的知識」についての説明は終わりです。次のスライドでは「手続き型知識」についてお話しします。

(2)人工知能における手続き的表現例(スライド番号No.13)

人工知能における手続き的表現例
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1)「手続き型知識」とは
「宣言的知識」は概念を整理してコミュニケーションすることに向くように作られている知識ですが、今のスライド(No.13)で取り上げる「手続き型知識」は "こうすればこうなる or こうしたからこうなった" という運動動作に関連の深い知識です。
こちらには手続き型知識の表現例のいくつかをまとめました。

2)プログラム
左側の一番上には、「Fortran77によるプログラム」のサンプルの一部を引用しました。プログラムも "こうすればこうなる" を記述するものですから「手続き型知識」の表現例となります。

プログラムの例(Fortran77によるプログラム)
77
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NAG Library Function Document nag_tsa_exp_smooth (g13amc)
https://www.nag.co.uk/numeric/CL/nagdoc_cl26/pdf/g13/g13amc.pdf

3)スクリプト
「Fortran77によるプログラム」の下に引用したものは、「スクリプト」の例です。「スクリプト」も "こうすればこうなる" を記述するものですから「手続き型知識」の表現例となります。

スクリプトの例
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SQL Server 2017 による In-Database Python 分析 チュートリアル
https://qiita.com/qio9o9/items/d7e38143c19943573882

4)予期駆動型フレーム
スライドの真ん中にど~んと書かれているのが「予期駆動型フレーム」の例です。
トップに書かれているのは、最終的にやるべき事柄がまとめられています。このフレームでは「やるべき事柄」つまり「動作名」がフレームタイトルになっています。
トップのフレームで目指している「動作」には、これを実現するための複数の動作があります。直前の動作の結果得られたデータによっては、次に実行する動作が行われなかったり、順番が異なってくる場合があります。それらをコントロールする方法は、フレームの末尾に「メソド」として書かれます。直前の動作の結果得られたデータを判別するために必要な参照データはテーブル形式でスレッドの後にまとめられています。他の動作に任せずにこのフレームの中で完了したい動作もメソドに書いておきます。
スレッド値には別の動作名が書かれているだけですが、その動作が何をすべきかは、動作名を頼りにその動作名がタイトルになっているフレームを探すとそこに書かれています。新しく見つかるフレームもトップのフレームと同じ構造で書かれていて、そのフレームの外で実行される動作はその動作名を持った別のフレームになります。
一つのフレームに複数の動作名がかかれることは少なくないので、一つのフレームからは複数のフレームが呼び出されることになります。
手続き型知識の階層構造を作ることができるということです。
これはオブジェクト指向型の関数の形に似ていませんか? おそらくは、こちらの予期駆動型フレームのほうが時代的に先なので、オブジェクト指向型関数がこれを真似たのではないかと思います。

予期駆動型フレームの例
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5)プロダクションルール
「プロダクションルール」とは、「もし~ならば~。さもなくば~」というような条件文(IF ~ then ~ else ~.)を羅列して手続きを表現するものです。

プロダクションルールの例(彼女をデータに誘う)
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6)ディープラーニング
"こうすればこうなる or こうしたからこうなった" という知識を自動的に取得できる仕組みがディープラーニングです。いったん取得した知識は(成否は別に)維持されます。「理由は説明できないが "こうすればこうなる or こうしたからこうなった" 」というもので、これも知識の表現方法の一つになりうるのです。
ここで、「理由は説明できないが "こうすればこうなる or こうしたからこうなった" 」というものに近いものが他にもあることに気づく方もいるのではないでしょうか。それは「事例表現」です。
ディープラーニングは「事例表現」とたいへん相性が良いので、私は、「事例表現」システムに「ディープラーニング」を導入することは比較的容易であるとみています(ワトソン君など)。

ディープラーニングの例
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Michael Nielsen 「ニューラルネットワークと深層学習」(「同」翻訳プロジェクト)
http://nnadl-ja.github.io/nnadl_site_ja/

以上が人工知能からみた「知識の構造」でした。

次のスライドでは、脳科学から見た「知識に関係する脳の機能」を取り上げます。

3-4. 脳科学の「脳機能」(スライド番号No.14)

脳科学の「脳機能」
14
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1)「人工知能の知識の構造」と「脳科学の成果」
スライドNo14の表をご覧ください。表の左側が人工知能で得られている知識の構造の概要です。表の右側には目立った脳科学の成果を書いてみました。
以下かがでしょうか。かみ合っていないですね。
文学的アプローチの心理学や仮説検証型アプローチの人工知能の成果は、極めて大づかみです。脳科学の成果は、脳の微細な部分の機能を調べているものなので、全体として脳がどうなっているのかという問いにはまだこたえられる段階ではありません。
一方、脳科学が解明したことは動かしがたい真実で、心理学や人工知能研究では気づかなかったものが存在しています。

2)脳科学の最近のトピックス
トピックスを拾ってみると直近では、本年1月12日理化学研究所が「他者の位置もグリッド細胞で認識していることを確認した」ということを発表しました。実はグリッド細胞はかなり重要な機能を果たしていることが分かりつつあるのです。自分の位置や、関心を持っている相手の位置がわかるだけではなく、自分から距離や時間なども測っている可能性が浮上しています。

3)古典的な記憶回路
「古典的な記憶回路」といわれるものがあります。Papez回路とYakovlev回路の二つです。この二つは近い位置にあります。以前は、どちらも記憶に関係する回路と考えられていましたが、最近では、Papez回路だけが記憶に関係する回路で、Yakovlev回路は情動(嬉しい、怒ったぞ、哀しい、楽しい!など)に関係する回路であることがわかってきました。ただし、感極まってYakovlev回路が興奮すると、すぐそばにあるPapez回路も興奮して記憶が促進される現象が観測されています。これは、激しい情動があった際には物事が自然とよく記憶されているということになります。ひどく悲しいことが起こった時のこと、楽しかったあの日のこと、、、は忘れにくいということです。

4)昔の記憶と今の記憶
心理学の世界では記憶の大分類を
 感覚記憶
 短期記憶
 長期記憶
と分けていますが、脳科学では
 即時記憶
 短時記憶
 遠隔記憶
と分けています。
それぞれの時間幅も含まれている記憶の種類も少しずつ異なります。

5)何回も思い出すと忘れにくくなる
脳科学で言う「短時記憶」は忘れやすい記憶とされています。特に老人になると「短時記憶」を保持するのが次第に困難になる傾向があります。これに対する対策として「ひんばんに思い出す」と良いというものがあります。「短時記憶」は思い出すごとに記憶が強化され遠隔記憶になってゆくということです。
脳科学の紹介者として著名な池谷 裕二東大薬学部教授は次のように言っています。

「復習4回」で脳をダマすことができる
プレジデント ライフ 2014.3.2
池谷 裕二
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無意識な記憶の保存期間は1カ月程度といわれています。最低でも1カ月以内に復習するようにしましょう。脳科学的に最も効率的なのは、以下のような復習スケジュールだと私は考えています。
学習した翌日に1回目(の復習)。その1週間後に2回目。さらに2週間後に3回目。さらに1カ月後に4回目。
全部で4回です。
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確かに、そうなのでしょうね。しかし、このままやろうとすると怠け者の私にはかなりしんどいですが、、、。

6)いろいろある脳科学のアプローチ
ところで、はじめのほうで脳科学は大雑把に言うと「解剖学的アプローチ」と言いましたが、少し詳しく見るといろいろなアプローチが取られています。
脳科学で取られている各種のアプローチをスライドの右側に列記しました。
一言では言えない多様なアプローチが取られていることが分かります。
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・電気生理学:動物においてパッチクランプ法、ヒト・動物において細胞内電極、皮質電極、脳波、脳磁図、経頭蓋磁気刺激(TMS)などを用いて神経細胞の興奮に関係する電気活動を、ミクロ・マクロのレベルで調べる。
・神経解剖学:神経細胞の内部構造、神経細胞間のつながり、細胞構造の動的変化などを光学顕微鏡、電子顕微鏡、凍結割断法、免疫染色その他を用いて調べる。
・分子生物学:遺伝子レベル、蛋白レベルで神経細胞の特性などを調べる。
・脳機能イメージング:脳活動をさまざまな装置を用いて可視化する方法。
・脳機能マッピング:脳機能イメージングや損傷脳研究で脳の各部位がどういう働きをしているかを、まるで脳を地図に見立てたように「マッピング」していく方法。
・動物の行動実験:サル、マウスなどの動物に、薬剤を投与したり遺伝子を操作するなどし、その行動を観察する。
・心理学研究、精神物理学的研究:被験者となるヒトに様々な課題を行わせ行動を観察することで脳機能を類推する(例:視覚の干渉刺激実験)。
・理論的神経科学:神経の機能をコンピュータで再現したり、認知・学習などの理論的なモデルを作成することで研究を行うもの。計算論的神経科学など
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7)どの分野が先行しているのか
今は、文学的アプローチの心理学や仮説検証型アプローチの人工知能が脳の機能モデルの面で、脳科学よりも先行しているように見えます。
私は、この状態でよいとは思っていません。脳科学によって、エビデンスに基づく確かな脳の機作を知り、その成果を心理学や人工知能が利活用する方が自然で誤りの少ない技術の発展が見込めるものと思います。

次の二枚のスライドは「AIが先か」「脳科学が先か」という話題の検討素材です。

(1) AI先行の脳機能 脳神経系と人工知能(仮説)(スライド番号No.15)

AI先行の脳機能 脳神経系と人工知能(仮説)
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1)はじめに
このスライド(No.15)は、AIが脳科学よりも先行していた部分についての解説です。
このスライドの図は、すでに何度もお見せしているものなので、詳しくは説明しません。
人工知能には3回大きなブームがあり、その合間には冬の時代もありました。
大雑把に分類すると
 推論と探索(展望的手続き型記憶)・・・・・・・第一次AIブーム
 知識(宣言的記憶)・・・・・・・・・・・・・・第二次AIブーム
 ディープラーニング(意識なき手続き記憶)・・・第三次AIブーム
「大雑把」とお断りしたのは、それぞれの時代を特徴づけるために「推論と探索」「知識」「ディープラーニング」という言葉を選びましたが、それぞれの時代に、研究者と研究活動はその冠にとらわれているわけではなく、様々な研究活動が並列に進んでいたというのがそれぞれの時代の実相です。各時代で脚光を浴びたものがおおむね「推論と探索」「知識」「ディープラーニング」というだけということです。
言い訳はこの程度にして、本題に進みます。

2)推論と探索(展望的手続き型記憶)はどこで行われているか
「推論と探索(展望的手続き型記憶)」は脳のどこで行われているものか、正確に言うと「推論と探索(展望的手続き型記憶)」は脳のどこで行われている活動をAIが模倣したものか、・・・前頭葉の後ろ半分、運動野と呼ばれる部分と頭頂葉とのコラボレーションによって実現している、正確に言えば、前頭葉の後ろ半分、運動野と呼ばれる部分と頭頂葉とのコラボレーションを模倣して実現していることになります。

2)知識(宣言的記憶)はどこで行われているか
「知識(宣言的記憶)」は脳のどこで行われているものか、正確に言うと「推論と探索(展望的手続き型記憶)」は脳のどこで行われている活動をAIが模倣したものか、・・・側頭葉と頭頂葉とのコラボレーションによって実現している、正確に言えば、側頭葉と頭頂葉とのコラボレーションを模倣して実現していることになります。

3)ディープラーニング(意識なき手続き記憶)はどこで行われているか
「ディープラーニング(意識なき手続き記憶)」は脳のどこで行われているものか、正確に言うと「推論と探索(展望的手続き型記憶)」は脳のどこで行われている活動をAIが模倣したものか、・・・小脳および後頭葉によって実現している、正確に言えば、小脳および後頭葉の働きを模倣して実現していることになります。

3)飛んでもテレビ学者と踊らされすぎオタク学生
ここで余計なことですが、ついでに言っておきます。
人工知能とは「ディープラーニング(意識なき手続き記憶)」のことだと主張する飛んでもテレビ学者や「ディープラーニング(意識なき手続き記憶)」が最終の集大成だと勘違いして、ディープラーニングだけをにわか勉強しているオタク学生たちがいますね。この間違いは海外でもチラホラ見かけますが、日本のほうが圧倒的に多いのです。第一次ブーム時代も第二次ブーム時代も日本の御用学者はまじめに人工知能に取り組んでこなかったからなのです。いまさら、あわててにわか勉強しても過去の厚みある知性の蓄積にまでは手が届かないのでしょう。
こんな人たちに私は言いたい。"あなたは、小脳と後頭葉だけでものを考えますか?"

4)残された領域
さて、この図を見ると空白の部分(灰色部)があります。
前頭前野部(前頭葉の前半分)、脳幹、延髄、迷走神経、自律神経、脊椎、、、など、人間の軸をなしている神経系です。ここは、ヒトの生き死にに直結しているので、生きる意欲や他者と関わりたい希望などの原動力となっています。ここを人工知能が取り入れなければ人工知能が人のように生き生きと行動することはないでしょう。逆に、ここを人工知能が取り入れれば、強いAIが実現します。
さて、もう一度、この図を見ると人工知能がカバーしているのは、運動野(前頭葉の後ろ半分)と頭頂葉と側頭葉の外側(頭蓋骨に近い部分)だけです。その内側、つまり脳幹に近くこれを包み込むような位置にある部分もカバーしていません。これは本日ご出席の柳澤先生に過日ご指摘をいただきました。おっしゃる通りです。大脳辺縁系と言われる重要な器官がここには存在します。先ほど脳科学のトピックスで取り上げたPapez回路やYakovlev回路はこの大脳辺縁系にあります。この部分のAI化もいまは進んでいません。
このような様子を見ると、AIはものすごい進化を遂げてきていますが、まだ、それほどすごくないともいえるように思います。

(2)脳科学主導の機能理解の例(スライド番号No.16)

脳科学主導の機能理解の例
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前のスライドは、AIが脳かがよりも先行していた部分についての解説でした。
このスライド(No.16)は、逆に「脳科学主導」で発展している分野です。

1)グリッド細胞
【2014年ノーベル生理学・医学賞】「私は、ここに、いる」で一躍有名になったのがグリッド細胞です。
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/201410062014-11.html
スライドの左の上の図を見ると見方によっては正六角形が連なっているとも正三角形が敷き詰められているとも見えるものがあります。正六角形または正三角形が敷き詰められているように脳細胞が並んでいる場所が発見され、グリッド細胞と名付けられました。

グリッド細胞のモデル図
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ノーベル賞「空間を把握する脳のメカニズム」とは何か
日経BP 2016.09.20
https://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/hosono_tohru/091300007/?P=4

グリッド細胞は臭内皮質にあり、海馬が持っている場所細胞と呼応していることが分かっています。グリッド細胞はいわば60度交差座標、場所細胞は、場所と対応付けられたインデックスのようなものですね。
ノーベル賞は、自分のいる位置がこのグリッド細胞に映し出されるという発見に対するものでした。
その後の2018年1月12日には、理化学研究所が、他社の位置もこのグリッド細胞が映し出していることをっ件したと報告しました。一緒に飼われている2匹のマウスの一匹を迷路に話して自由に行動させて、残りの一匹を固定したままそのグリッド細胞を観察すると自由に動くマウスのいる位置の細胞が興奮することが分かったということです。これからは、マウスが関心を持っている対象が今どこにいるかを知るためにもグリッド細胞が働いているということができます。
さらに、グリッド細胞とシータ波の関係を観察するとシータ波の位相差から距離が計測されていることが分かり、時間の前後関係やその間隔もシータ波の位相差から計測されているらしいことがわかってきています。
ということは、エピソード記憶の生成などにも関係しているかもしれません。

場所細胞の位相前進/エピソード記憶も?
Photo_14
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ノーベル賞「空間を把握する脳のメカニズム」とは何か
日経BP 2016.09.20
https://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/hosono_tohru/091300007/?P=4

シータ波の位相前進を説明する図「場所細胞の位相前進エピソード記憶も?」はグリッド細胞の図の下に書かれています。

2)グリッド細胞は他人の現位置まで知っている
こちらは、理研の報告書に記載されている図です。

理研の実験報告
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2018.01.12 理研
http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180112_1

3)Papez回路とYakovlev回路
こちらは、Papez回路とYakovlev回路の図ですが、これらの知見も脳科学の成果です。

Papez回路とYakovlev回路
Papezyakovlev
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Papez回路(青・赤矢印)とYakovlev回路(緑矢印)
https://bit.ly/2o0uR1J

4)その他
脳科学の言う「近時記憶」は心理学の「短期記憶」とは少しずれた概念ですが、「近時記憶」は失われやすいこと、適切に繰り返し思い出すことで遠隔記憶となって記憶が定着するという説明図です。特に、老年になると「近時記憶」はますます失われやすいらしいので、注意しなければならないですね。

月浦 崇先生の解説図
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<クリックすると拡大します>
月浦 崇先生、京都大学広報誌 2016年5月30日(月)1限(8:45~10:15) 吉田南4号館 30教室
http://www.kyoto-u.ac.jp/kurenai/201609/gakumon/

池谷 裕二先生の解説
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池谷 裕二、プレジデントFamily 2014年4月号)
https://president.jp/articles/-/12018?page=2

5)念を押して
繰り返しになりますが、今は、文学的アプローチの心理学や仮説検証型アプローチの人工知能が脳の機能モデルの面で、脳科学よりも先行しているように見えます。
私は、この状態でよいとは思っていません。脳科学によって、エビデンスに基づく確かな脳の機作を知り、その成果を心理学や人工知能が利活用する方が自然で誤りの少ない技術の発展が見込めるものと思います。

4.知識の構造と創造、アラカルト(スライド番号No.17)
さて、知識の構造のあらましがご理解いただけたところで、その知識の構造に組換えが起こる「創造」の周辺事情をいくつかピックアップいたします。

4-1.グランドシンキングに役立つテクニック(スライド番号No.17)

グランドシンキングに役立つテクニック
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このスライド(No.17)は、知識の構造の高度化の前に、知識を獲得する必要がありますので、知識を獲得する際のテクニックをまとめました。
グランドシンキングに役立つテクニックは、「燃えて覚える&忘れないうちに思い出す」です

1)生存活動サイクルで必要な知識を効率よく獲得
まずは、「創造力の作り方1」と「創造力の作り方2」で取り上げた生存活動サイクルをしっかりやるということが前提です。このサイクルを回すためには必然的に情報収拾活動を行うことになります。

生存活動サイクル
Photo
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目的があって調べ物をするときの知識吸収力は、漫然と丸暗記にいそしんでいるときに比べて情報に対する理解力も知識としての獲得量としても定着率においてもダントツに効率が良いことがわかっています。これは、皆さんもおそらく日常的に感じていることと思います。
また、サイクルを回すということは、たくさん失敗してつまづいているということです。つまづくごとに人はナニクソと燃えてゆきます。燃えれば燃えるほど目的意識の高揚と没頭が起こりやすく、知識獲得だけではなく、創造が起こりやすくなります。目的意識の高揚があれば、没頭時、レム睡眠時、瞑想時、覚醒時の創造が起こりやすくなります。
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1 )生存活動サイクル* は「情熱サイクル」でもある
  内発的に燃えて知識も豊富化に向かう。
* つまづいて戻るごとに問題意識が高まる。問題意識が高まれば、燃えて燃えて、頭はよく回るようになる。
  ここでは「ヒトとしての目標設定ができる」「知の探索と再構築ができる」 「グランドシンキングが備わっている」が必要。
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2)忘れないうちに思い出す
豊富な知識(グラウンドシンキングまたはグラウンドナレッジ)がないと、大した創造は起こりません。元が少ない知識では、いくら結合を組み替えたところで たかが知れているからです。
豊富な知識を身に着けるには、やはり努力も必要です。

池谷裕二先生は、効率の良い知識獲得は次のようにせよといっています。
--------------
近時記憶(忘却激しい)について
脳をだます: 学習した翌日に1回目(の復習)。その1週間後に2回目。さらに2週間後に3回目。さらに1カ月後に4回目。(東京大学薬学部 薬品作用学教室教授 池谷 裕二、プレジデントFamily 2014年4月号)
https://president.jp/articles/-/12018?page=2
--------------

人の顔と名前をどれだけよく覚えられるか、これは政治家の生命線なのだそうです。池谷先生とは少し違いますが、政治家の皆さんも頑張っています。
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<人を忘れない政治家の超絶記憶法>・・・池谷先生の復習術に通じる。
 ・別れ際、後ろを向いたら、名前と顔を思い出す。
 ・事務所か自宅に戻ったら、今日もらった方の名刺を並べて、顔と話を思い出して、日付と時刻を書く。
 ・折に触れて、名刺フォルターを見直して、追加事項がないかどうか点検して、必要があれば名刺にさらに書き込みを行う。
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ある日、ある市の市長と駅前でばったり出会いました。そのままスルーして行き過ぎようとすると、市長から「やぁやぁ、飯箸先生。お久しぶりです」と声を掛けられました。びっくり仰天でした。この市長とは2年ほど前に人の紹介で一度会っただけです。
思わず、「よく覚えていましたね」というと、彼は「いやね、僕ら政治家はヒトの顔と名前を覚えるのが商売なんですよ。これができなくちゃ当選しません」と笑いながら言うので、「それにしてもすごいですね。覚えるためのコツのようなものがあるんですか」と聞くと、「名刺をいただいて、挨拶して、お別れするわけですが、後ろを向いた瞬間にその方のお顔と名前を思い出すんです。お名前がはっきりしなかったら名刺を確認します。このとき、できれば、日付けとどんな要件だったかを、名刺にメモします。それから事務所に戻ったり、自宅に帰った際に、その日のうちに名刺フォルターに整理しますが、その時も顔を思い出して、日付、用件、場合によってはいい人だったとかの印象を書くんですよ。それから、名刺フォルダは折に触れて見直して、その後もお会いして書き込みが不足している場合などはどんどん追記してゆくんです。名刺を見るごとにどんどん記憶は強くなってゆきます」と説明してくれました。並んで歩いて市庁舎まで到着してしまいました。手の内を明かす率直な態度にかなりの好感を抱いたのは確かです。
繰り返し思い出すことが記憶を定着させることには大変効果的だということと思います。

3)知識の構造変革に役立つ知識構築については、次のスライドでお話しします。

4-2. 知識構築、知識の階層構造(スライド番号No.18)

知識構築、知識の階層構造
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数十年使っている図をここでもお見せします。
社会の構造は、知識の高次構造によく似ているというお話です。

1)社会の構造
左側の図は、個人と社会の関係を示したものです。
個人は、いろいろな組織に同時に参加することができます。この会場にいらっしゃっている皆さんはSH情報文化研究会の一員になっています。しかし、同時に所属する会社や団体のメンバーでもあります。皆さんご家庭をお持ちですから、ご家族という組織にも参加しています。ここにきているから家族でなくなるということはありません。
組織というのは、物理的な箱みたいなものではなくて約束でできている仮想的な結合だから、同時に多数の組織に存在できるのです。
さて、会社の組織を例に挙げると、大抵は3人から7人(*)で構成されるグループまたは班と呼ばれる単位組織があり、単位組織がいくつか集まって課を構成しています。実は個人はこの単位組織に属して、いきなり会社組織に配属されたりすることはありません。個人が単位組織に参加する際はクループのルールに従う義務と引き換えに自分の意見を言うことができる権利も獲得します。
課がいくつか集まると部になり、部がいくつか集まると事業部になります。これらの間の関係も同様です。会の組織は意見を言う権利の替わりに決定には従わなければならない義務を負います。この関係をメタ関係(権利と義務がある)と言います。
事業部がいくつか集まってホールディングスなどの一つの会社になります。会社は業界団体に参加して、業界団体は国家の機関である行政の指導下に入ります。他の団体でも同様です。大学も私大協や国大協を通じて文部科学省の指導下に入ります。スポーツ団体も市連、県連、全国連合を通じて文部科学省につながります。
今日の多くの国家は、国民国家ですから、ほぼ同様の仕組みですべての社会的組織が国家に統合されるようになっています。この社会のヒエラルヒーは社会を構成するいわば縦糸のようなもの、社会のたて関係を実現しています。この仕組みは歴史的産物ですから、少し前(江戸時代など)は違っていました。これからも変化があるかもしれませんが、今はこうなっているということです。
また、権利もあるが義務もあるというやや堅苦しいメタ関係(社会の縦糸)とは別に、呼びかけられて賛同した時だけ参加できる権利がある関係もあります。
たとえば、大学の同期がいろいろな会社に散っていきましたが、アメリカから同期の一人が東京にたまたま帰ってきたので、在京の同期だけでも集まって会食しようというときなどはどうでしょうか。同期のネットワークはありますが、会食を誘うメールが流れてきても必ず参加しなければいけないという義務はありません。仕事が忙しくで残業バリバリなら、「ごめん」と言えばよいですね。奥さんのお誕生日だったら、奥さんのご機嫌が優先でしょう。でも会いたいと思っている気のいいあいつだったら、仕事はちょっとだけ融通をつけて参加したいといえば参加できる権利はありますね。
こういう関係(参加する権利はあるが、義務はない)をネットワーク関係と言い、社会が硬直化するのを防ぐ役割を担っていると考えられます。ネットワーク関係は、いわば社会の横糸です。政治家の後援会組織やファンクラブ、などははネットワーク関係で成立しています。
 * 上限7人は社会学で「マジックナンバー7」と呼ばれています。

2)知識の高次構造
右の図は知識の高次構造を示しています。
見た目でもよく似ていますね。
実は左右の図はもともといずれも35年くらい前に作成したものですが、社会の構造図のほうが2年ほど古く、知識の高次構造図はその後描かれたものです。微妙に筆致が異なるのは、時期が違うせいです。筆致の違いはご容赦をお願いします。
基礎的で単位的な知識、例えば「たんぽぽ」というものを知ったと仮定しましょう。この「たんぽぽ」の花は黄色です。「たんぽぽ」はキク科の植物ですから「キク科」という上位概念に属します。下位概念は上位概念に規定されますので、「たんぽぽはキク科の植物である」です。逆は必ずしも真ではありません。「キク科の植物はたんぽぽである」は誤りですね。
また、「たんぽぽ」の花は黄色ですから、「黄色の花が咲く植物」というカテゴリーにも入れることができます。「黄色の花が咲く植物」というカテゴリーには、「黄色のたんぽぽ」も「黄色のチューリップ」も「黄色のバラ」も「きいろの・・・」も・・・、入っています。さらに「たんぽぽ」はぎざぎざの葉っぱをしていますから、「ぎざぎざの葉っぱを持つ植物」というカテゴリーにも入れられます。
基礎的で単位的な知識は同時に多数の上位概念に所属させることができます。人と組織の不思議な関係とまるで一緒です。
キク科やバラ科、マンサク科などいろいろな植物の科分類があるとそれらをまとめて「植物」という上位概念に所属させることができます。
「たんぽぽ」の替わりに、「黄色い鉛筆」だったり、「黄色の雨がっぱの女の子」だったりしたらどんな上位概念ができるでしょうか。知りうるすべての基礎的で単位的な知識をこうしてまとめ上げてゆくと、すべては自分との関係に結びついてゆき、自我に統合されるといわれています。統合に失敗すると統合失調症などと呼ばれることになります。

3)「社会の構造」と「知識の高次構造」の相同性
諸説ありますが、一説(飯箸仮説)によれば、今から約60万年前、中東の地で、ホモサピエンス・ネアンデルタレンシスとホモサピエンス・ホモサピエンス(現生人類)に分化する際の決定的な違いは、社会を作るか作らないかという点にありました。
広大なアフリカの地で向け童子が出会うのは年数度という程度の暮らしをしていた人類でしたが、70万年~80慢年前、一部の人がアフリカを出て、肥沃な中東の地で人々が密集して暮らすようになります。密集して暮らすようになれば群れが出会う機会も多くなります。群れが出会うごとに威嚇して、場合によっては戦闘しなければならないのはいかにも非効率になってきました。1日に複数の群れと遭遇する事態になったら、食事をしている暇もなくなります。威嚇したり戦闘する代わりに、一緒に酒を飲み、毒キノコにしびれて、互いを味方と認めて一緒に暮らすことの方がはるかに生存に有利という状況が生じたに違いありません。
それまでは、ムレ(血縁を紐帯とする)で暮らしていた人々が、ムラを作り、若いおすだれが血族とは関係なく、一緒に狩りに出掛けたり、メスたちが血族とは関係なく一緒に木の実の採集に出かけたりすることが行われるようになったに違いありません。血族とは関係なく一緒に食事をしたりもしたでしょう。ムラの秩序を保持して、狩りや食事作りのルール、小屋を作る際の場所決めなど、ムラの運営はムレの運営とは違ってかなり複雑になってきます。車座の合議の上に、最終的には、リーダーがいて、決定権を持たなければまとまることもできません。
組織の形は少しずつ固まっていったものと思いますが、ヒトはその組織の形を理解できる知識の構造を持たなければなりませんでした。あるいはすでに組織の形を理解できる知識の構造を持っていたから組織ができたのかもしれません。いったん組織が出来上がると、組織の形を理解できないヒトは秩序を乱すものとしてムラから排除され、森に追われてハイエナの餌食なってしまったものと思います。こうして組織の形を理解できる知識構造を作りうるヒトの遺伝子だけが残ってホモサピエンス・ホモサピエンスになったに違いありません。遺伝的に固定されたのは約60慢年前と推定されています。
「社会的脳」という言葉があります。一般には、「駆け引きができる脳」と言われていますが、これはインドアーリアンによる矮小化だろうと思います。「社会的脳」とはそのものずばり、社会と相同的な脳という意味と私は理解しています。

4)知識構造の変革=創造
この図を見ながら、創造と言うものを考えてみるとわかりやすいと思います。
 ①知識の構造(右)の直線の矢印や曲線の矢印のつなぎ方が変わ
  る。
  これが大規模に起これば「創造」です。小さな変化にとどまれば考
  え方の改良ということになります。1つの階層の中だけの変化なら
  ば改良、階層を超えて変化が波及する際は創造と言ってよいよう
  に私は思います。
 ②1つのヒエラルヒーが2つ以上のヒエラルヒーに一時的に分裂する
  こともある。
  「どうしたらいいんだ。考えがまとまらない!」という瞬間ですね。
  よくあることです。
 ③2つ以上のヒエラルヒーが合一して変化するとき、ヘーゲル弁証
  法のアウフヘーベンとなる。
  ヘーゲルを読むと神かがりかと思うほどわかりにくいですが、こう
  してみれば、ごく当たり前のことを説明していたというようにも感じ
  ます。

4-3. “なぞ”の答え(スライド番号No.19)

“なぞ”の答え
19
<クリックすると拡大します>

さて、ここで、演習問題です。
皆さんも考えてください。
今まで、知識の構造を取り上げてきました。これまでの知識を使って少し謎解きをしてみたいと思います。
----------------------------
<教育界のなぞ>
1)未踏プロジェクト(*)の若者はなぜコミ障なのか。
2)普通の学業成績の悪い子になぜかシステム能力が異常に高い子
  がいる。
  学業成績の良い子でもシステム能力が全くない子もいる。
----------------------------
(*)情報処理推進機構、「未踏事業は、ITを駆使してイノベーション
  を創出することのできる独創的なアイディア・技術を有する若い
  個人の発掘・育成を行います。」
  https://bit.ly/2D3Hio1
----------------------------
教育界では、上記のような "なぞ" がささやかれています。理由について、考えてみましょう。おそらく、このSH情報文化研究会に出席された方は答えがお分かりになったのではないでしょうか。

私の仮説的解答は、次の通りです。
----------------------------
<仮説的解答>
①システム能力は「手続き型思考能力」
         ・・・・・・・(運動野と頭頂葉)
②一般の学業成績は「宣言的(言語的)思考能力」
         ・・・・・・・(側頭葉と頭頂葉)
1)言語は主に宣言的思考能力に依存する。
2)両方優れている人は少ない。片方だけ優れている人もいる。
----------------------------
つまり、未踏プロジェクトに集まるような若者は、コミュケーションに不可欠な側頭葉と頭頂葉に依存する宣言的(言語的)知識に欠けていても、運動野と頭頂葉だけは発達していて手続き型知識に強い場合があるということであると私は思います。
また、学業成績は言語能力を問う試験で判定されていますから、側頭葉と頭頂葉に依存する宣言的(言語的)知識が検査されていることになります。側頭葉と頭頂葉が発達していても、手続き型知識を駆使するために不可欠な運動野と頭頂葉が発達していないことがままあって不思議はないと私は思うのです。
教師は、学生生徒の特性を見て、得意を伸ばして不足を補う努力をするべきですが、人間だれしも欠けたところがないなどという人はいないので、不足した能力を補うにあたっては、満点にしようなどとは思わず、得意を活かすために足りれば良しという寛容の精神をもって子供たちに接するのが良いと思うのです。

もう少し補足します。
<手続き型知識と宣言的(言語的)知識>
手続き的知識はほとんどが構成的知識を基にしているので、手続き的知識を構成的知識という宣言的(言語的)知識に翻訳が可能です。
宣言的(言語的)知識の全部を手続き的知識に翻訳することは困難ですが、その一部である構成的知識ならば手続き的知識に翻訳ができる。
⇒「頭の悪い子(宣言的知識が不得意)は、手で覚えろ(手続き的知識)から取り入れろ」
公文式や作業療法がこれにあたります。
一理ありますが、宣言的知識のすべてはカバーできないことに注意が必要です。

5.次回予告(スライド番号No.20)

次回予告
20
<クリックすると拡大します>

次回「創造力の作り方4」の予告です。
----------------
次の「創造力の作り方4」では、
 ヒトの推論の方法に
焦点を合わせたいと思います。
----------------
よろしくお願いいたします。

終わり(スライド番号No.21)

終わり
21
<クリックすると拡大します>

ご清聴ありがとうございました
本日の私の話は、これで終わりです。


<次の記事に続く>

△次の記事: 感性的研究生活(130)
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琵琶

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